痴漢やレイプ犯を撃退した事例もある。41年5月12日、栃木県県庁に勤める15歳の少年は、県庁近くに住む25歳の女性をレイプしようと後をつけ、人気のない山道に差し掛かったところを襲い掛かった。ところが、逆に女性に殴りつけられ逃げ出したものの、すぐに女性に追いつかれてさらにボコボコに。しかもそこを警官が通りかかってたちまち確保。当然、県庁もただちにクビになった。
また43年11月17日に東京で、植木職人の娘(17)が、父親の仕事の使いか何かであろうか、麻布にある寺院の境内を歩いていたところ、突然、物陰から男が現れて彼女に抱きついた。ところがこの娘さん、なかなか腕に覚えがあって、男の狼藉にひるむどころか、「男を蹴倒し組打をなし」、つまり、暴漢をけり倒した上につかみかかって殴りつけた。ここでも格闘中に警官が駆けつけて、彼女とともに取り押さえた。犯人は19歳の少年だった。
極めつけは26年、東京・淀橋(現・新宿区)で工事の砂利を運ぶ車を引いていた牛が暴走。これを見た代々木に住むおぶん(26)なる女性が突進してくる牛の前にはだかった。「危ない」「逃げろ!」と周囲が叫ぶ中、彼女は動こうとしない。そして、牛が彼女を跳ね飛ばすかと思われたその瞬間、おぶんさんはひらりと身をかわすと、右手で牛の角をガッとつかんだ。それにつられて、牛は往来で何度かぐるぐる回ったかと思うと、たちまち大人しくなった。
それを見た人々が近くに集まってきて、「大丈夫かい?」などと声をかけると、おぶんさんは笑って言った。
「私は一昨年まで、興行で牛使いをやっていたものですから、このくらい造作もないですよ」
(文=橋本玉泉)