『口裂け女』(07)や『テケテケ』(09)といった作品でジャパンホラーの牽引役となり、『ノロイ』(05)や『オカルト』(09)、そして映画版も公開された『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズ(12~)など、近年のホラー映画のトレンドであるPOV(Point Of View=主観映像)をテーマにした作品を数多く世に送り出している監督・白石晃士。通常のPOV映画が淡々と恐怖を記録していくスタイルがメインなのに対し、白石POVは「なぜそんな全力で間違った方向に行くの!?」的な暴走で観る者を困惑させ、さらには誰もが唖然とするような衝撃的なラストで常に新鮮な驚きを与えてくれる。そのため氏の描く世界観にハマるファンが急速に拡大中だ。
そんな白石監督の最新作は、なんと日韓合作映画だ。それも韓国でひとつのジャンルとなった、猟奇サスペンスである。
もちろん白石作品だけに、ただの猟奇サスペンスには終わらない。障害者施設を脱走し、18人を次々と殺害する猟奇殺人犯と、その幼なじみの女性ジャーナリスト。なぜ殺人に至ったかを語りたいという彼のリクエストに応え、日本人カメラマンとともに廃墟と化したマンションに訪れた彼女が見たのは、さらなる惨劇と、誰もが想像のし得ない殺人の理由と、その結末だった…。予想外に暴走するストーリー展開に、想像の遥か斜め上を行く衝撃的なクライマックス。海外に進出しても、全くブレることなく、さらに先鋭化した白石演出が冴えるのだ。
この問題作『ある優しき殺人者の記録』で、犯人の襲撃を受ける日本人カップルの片割れを演じたのが、メンズサイゾーでもおなじみの葵つかさだ。
近年ではAVという枠組みを超え、『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』(13)や香港、台湾といったアジア各国の映画・ドラマにも出演する機会が増えるなど、その活動の場を広げつつある彼女。本作でも偶然、殺人犯の潜むマンションに入り込んでしまったためにターゲットとなり、監禁された挙句に犯されそうになる姿を体当たりで演じている。そんな彼女が初めて挑んだ白石作品、そして日韓合作映画について赤裸々に語ってもらった。
──『ある優しき殺人者の記録』出演の話をいただいたときの率直な感想は?
葵つかさ(以下、葵):最初にお話をお伺いしたときは、今まで演じた経験のない役柄だったんで、「わたしにやれるのかな?」って不安感もあったんですけど、同時にこういう役を演じてみたいという好奇心も湧いてきて、あとはもう、とにかくやる気まんまんでした。
──白石監督の作品はご覧になられていましたか?
葵:それまでは拝見したことがなかったんですけど、お話が来たときに改めて『ノロイ』(05)『オカルト』(09)『超・悪人』(11)の三本を観たんです。その中でも本作同様に監督が出演されてらして、変わった人のところに向かい、いろんな事態に巻き込まれちゃうっていう展開がリアルでしたね。
──今回の作品も割とそういう路線ですが、脚本を読んだときの感触はいかがでした?
葵:わたしの役回りは犯人の襲撃を受けるカップルの彼女で、単純に言っちゃうとヤンキーなんです。だからしゃべり方も関西のお姉ちゃんっぽい感じでって監督に言われて。わたしは関西出身なんですけど、それまでそういう役はあまりやったことがなくて、脚本を読んでいく段階でけっこう戸惑いを覚えました。
──他に監督から、役作りのうえでリクエストみたいなものはありましたか?
葵:彼氏との絆みたいなものについては指示がありました。お互いヤンキーっぽい絆っていうか「もしも二人の間にこういう事態があったら、覚悟の上でお互いこうする」みたいなものを、前もって決めてる感じの。
──ああいう絆は個人的にいかがですか?
葵:ちょっとヤクザっぽくもあるんですけど、そういうカップルもいいかなって思いますよ(笑)。
──でも普通、映画の中で宿命づけられた部分はあったとしても、韓国に行ってまで、あんな廃マンションに日本人のカップルが入り込んだりしませんよね(笑)。
葵:あれはまぁ、イメージ的には私が豚足を食べたいとか、そんなことを呟きながら入っていくんですけど、監督からは廃墟に入ってイッパツする? みたいな気楽な感じでやってって言われてたんで(笑)。