【世にも奇妙なAV業界の話】 第一回:疑似ザーメンはどう作る?
昨今、人気テレビ番組の“ヤラセ”が発覚して問題になることが多い。演出と割り切ってしまえばそれまでだが、どうしても潔白な視聴者は過敏に反応してしまう。ことさら日本人はヤラセ嫌いなのだ。
では、AV業界はどうか。読者の皆様もおわかりのとおり、企画を成立させるためのヤラセはまかり通っている。ユーザーたちの間で『パケ写詐欺』や『擬似精子』は、もはや有名な話だ。そこで、まずはどんな“擬似”小道具が使われているかを検証してみよう。
●精子
使用される主な作品:中出し、ブッカケ
原料:卵白、スキムミルク、ウーロン茶
生卵の卵黄を除いてから、コンデンスミルクを混ぜて適度に泡立つまでかき回す。最後に少量のウーロン茶を加えて色味をリアル精液に近づける。ローションに歯磨き粉を加えるモノもある。
●おしっこ
使用される主な作品:単体女優モノ、凌辱系
原料:お茶、ジャスミン茶など
擬似おしっこの使用頻度は高くないが、時折単体女優の凌辱モノで使われることがある。ほとんどの原料はお茶かジャスミン茶を薄めたり、配合したりしてリアルなおしっこに近づけている。
●うんこ
使用される主な作品:スカトロ、凌辱系
原料:ガトーショコラ、ウーロン茶
チョコケーキにウーロン茶を適量まぶして握り、うんこの形状に仕上げる。ふわふわしたスポンジ系のケーキよりもガトーショコラのようにしっとりしたケーキのほうがよりリアル感が強まる。スカトロ作品の現場では甘い香りが漂うことが少なくない。
●愛液、潮
使用される主な作品:大量潮噴きモノetc
原料:ローション、水
ローションと水の分量を調整すれば、女性の体液はたいてい再現できる。カメラ越しに見れば、ほとんどわからない。
●発射専用チューブ
おしっこや潮、精子など発射シーンまで擬似で再現する場合、ペニスの裏側や女性器の下にチューブを通すことがある。監督の合図とともに、背後でADが一生懸命にポンプを押し、射精や潮噴き感を演出する。
AV30年の間に、これらの擬似小道具は考案されてきた。監督や現場によって作り方はさまざまだが、上記が一般的といえるだろう。
さて、ユーザーにとっての問題はこうした擬似モノがどれだけの頻度で使用されているかということ。wikipediaの『膣内射精』の項目には、ほとんどの中出しAVは擬似精子であると記述されている。はたして現実はどうなのか。
筆者の経験からすれば、“ほとんど”というのは言いすぎである。ここ数年、安易な中出しモノが増えており、擬似が隆盛しているのは間違いない。しかし、パッケージに“ガチ”と大々的に謳っている作品は、入念な準備(ピルを一カ月前から飲んでもらったりする)のもと、リアルな中出しをしている作品も多数発売されている。“ガチ”だと謳うのは、わざわざそれだけの苦労をしているのに、擬似だと誤解されたくないからだ。それはうんこや飲尿モノについても同じである。
しかし、アダルトビデオはすべて“ガチ”でなければならないのだろうか。筆者はそう思わない。アダルトビデオはあくまで映像作品である。たしかにドキュメンタリー要素は強いが、そこにはファンタジーやドラマの要素が入っていても構わないのではないか。
出演者もユーザーも満足できるようなヤラセは、演出の範囲内で許容されるべきだと思う。ましてや中出し作品が“ほとんど”擬似だという憶測にすぎない噂をさも現実かのように喧伝するのは、製作者に対するユーザーの裏切りのように感じてしまう。
かつて業界に身を置いていたため、ついつい熱くなってしまったが、筆者も『パケ写詐欺』だけはイライラする。タイプの女優だと思ったのに、実際の映像を見てガッカリするのはウンザリだ。ユーザーの審美眼が洗練されてきたゆえに、デザイナーの修正する技量も向上して、ますます『パケ写詐欺』は功名になっている。結局はイタチゴッコなのだが、それを続けるあたり、製作者もユーザーもまだまだ元気だなぁと、つい笑いをこぼしてしまうのだ。
(文=中河原みゆき)