成長していく二人の恋愛が心地良すぎる連作集!
尾野けぬじ著『アイあるセカイ』
男女の関係って、体を交える回数を重ねるたびに深まっていく。……っていうのは当たり前としても、何がいいって、気付かないくらい細かいところのやりとりが変わっていくのがいいんだなー。
呼び方が変わっているとか。一緒にいる時間が増えてるとか。つい目で追ってるとか。
つまり事後には、二人の関係がレベルアップしている、というコト自体が一番エロいんじゃないかと思うんですよ、ぼくは!
尾野けぬじ氏は、こんな男女の心境変化の機微を描くことに長けた作家です。今回紹介する単行本は、18禁ではないものですが、エロシーンと物語パートの絶妙なバランスから生まれる、この作家の良さは健在です。
えっちによって育まれる二人の関係がテーマなので、連作が多め。一話目よりも二話目、二話目よりも三話目がエロい、という高ぶる流れが非常に心地良い作品集です。
例えば分かりやすいところで、「お願いミサキちゃん」というシリーズを紹介しましょう。ショートカットのスレンダー元気っ子・ミサキちゃんと、頼り甲斐のなさそうな中谷先輩。二人は、同じサークルので適当な行き先を決めて貧乏旅行をする仲間でした。ところがある旅行で他の人が欠席してしまい、ミサキちゃんと中谷先輩の二人きりに! とはいえ、お互い異性としてそれほど意識していないし、「ま、いっか」という流れで旅行に出発しました。これが第一段階。
そして、旅先では宿泊できる部屋が一部屋しかなく、結局同室に泊まるはめに。そうなると意識し始めるのが男というもの。中谷先輩はまさかの土下座で「サせてください!」とせがむヘタレぶりを発揮します。それに呆れつつも、OKしてしまうミサキちゃん。気が付いたら二人でセックスに溺れる一晩を過ごします。熱い夜を過ごしたにもかかわらず、朝起きたらごく普通に旅行の続きを再開して驚くのですが、帰りの駅でキスをして逃げていくミサキちゃん! これが第二段階。
ここからちょくちょく一緒に遊びに行っては、エッチをする関係になった第三段階、酔っ払ってエッチを自分から迫るようになり好きだと告白するミサキちゃんという第四段階、付き合い始めてデートのたびに女の子らしい格好をし始めるミサキちゃんが第五段階、そしてお泊りをせがむミサキちゃんの第六段階へとどんどんステップアップ!
ミサキちゃんと中谷先輩の関係が、どんどん変わっていくのがたまらなくエロティック。セックス中にもそれは表現されていて、二人は心を開くかのように体を解放し始めます。
二人でいることやセックス自体に抵抗を感じなくなる「慣れ」の描写と、好きだという意識が蓄積して、ドキドキが止まらなくなる「赤面」の描写が本当にうまい。恋愛してエッチする、というワクワク感でいっぱいなんです。
その他にも「初めての×××」というタイトルの通り、初めてえっちするふたりの成長を描いたシリーズも、特にラストがたまらない!
「この二人、ヤったな」というのがすぐに透けて見える二人の初々しさにニヤケてしまうこと間違いなし。大げさな言い方をすれば、ここに生きている人間の幸せを感じるのです。
スレンダーで筋肉質な女性を描く作者、体のこわばり方でエロさを最大限まで伝えるため、セックスシーンは女性の動きに注目してほしいところ。セックスを通して、男女の不器用で等身大の小さな恋の成長を描く、読んでニヤニヤできる一冊です。
(文=たまごまご/たまごまごごはん)