鬼束直『ポルノグラフィティ』
エロマンガって、どうしても刺激を求めて「もっと激しく!」「もっとすごいのを!」となる傾向があります。
決して悪いことではありません。だってスタンバイ状態の時に見るなら、激しく色々な形で脳髄のエロい部分を刺激してくれる視覚的エロスが欲しいじゃあないですか。しかも大抵の場合短編が多いので、インパクト抜群のキャラクターの方が分かりやすいし可愛く見えやすい。そうなってくると女の子キャラクターも、どんどん突飛なものになっていきます。それはそれで、とても面白いエロマンガの進化です。
しかし、鬼束直氏は一貫して一つの路線で作品を描いています。それは「普通の少女像」と「普通であることのエロさ」。
普通、って表現すごい曖昧で難しいかもしれませんが、ようするに日本人の少女のイメージの平均値なんですよ。すごいロングでもアップツインテールでもない、ちょっともっさりした質感のセミロングの黒髪。だけど女の子だからちょっと洋服に気は使っていて、ちょっぴりおしゃれして背伸び。だけどやっぱり幼いからどこか抜けている。褒め言葉としてのフラットさです。
実のところ、これをエロマンガで描くのは本当に難しい。要するに悪く言えば地味なんですよ。キャラクターの性格が外見では判断できない。しかし一定の技術水準を保って描くと「普通」であることがものすごくリアリティーを増し、こちらの持つ「かわいい」と思う感覚をくすぐるのです。鬼束直氏の描く少女は巻を重ねるごとにその「読むと分かる可愛さ」を確立し始めています。まるで、読み終わった後少女の体温を感じるかの如くに。
個人的にオススメしたいのが短編「好きになったらいいじゃない」と「close to you」。どちらもなんてことない、本当にすぐそこにいそうな少女なんです。特に「close~」は細目の女の子描写が秀逸で、「いるわー、こういう子」と思わせる力が絵から伝わってきます。えっちに入るまでの事前描写が本当に丁寧。劇的なことが起きるわけじゃなく、えっちしたくなってしまう二人の感情がものすごく自然。
そうなんだよ、求めているのはその「自然」なんだよ! 事前事後描写もえっち中の挙動も、本当に緻密に描かれているのです。特に手の描き方は注目。見た目はいい意味で「普通」、だけれども彼女たちの情感がしっかり分かるため、日本人の脳の中の「女の子は可愛い!」という本能を刺激するのです。
今回の作品集には、男性の名前を”○○君”と伏せ、あえて男性を描かず主観構図によって読者に少女との睦み合いをバーチャル体験させる「girl’s collection」や、二人の少女が何のためにえっちをするのか最後まで読まないと分からない「Papiliones」など、かなり実験的な作品も掲載されています。これらも、体温を感じるような自然な少女が描ける鬼束氏の技術があってこその安定感があるため、非常に読みやすい上に余韻の残るいい作品に仕上がっています。
カテゴリとしては「ロリ」に入りますが、ロリに興味がない人にもオススメできる一品です。むしろ熟女好きの人でもこの作品集で「ロリもいいかもしれない」と転んでしまう可能性すらあります! 熟女マンガが得意とする「体温を感じる生々しさ」をうまく「ロリマンガにおける普通」に置き換えることのできる作家、それが鬼束直という漫画家だと思うのです。
(文=たまごまご/たまごまごごはん)