<短期連載>

【AV撮影現場今昔】 第1回「擬似本番女優」の時代


 ここが長引いた場合は正午を超えることもあるが、ここから続いて作品のメインとなるカラミシーンの撮影が行われる。いったん整えた衣装とメイクをそのまま活かすという当然の流れである。このカラミが作品のメインではあるが、スムーズに始まってしまえばもうあとは流れのままに、という感じになる。カラミの収録時間はせいぜい15分くらいのものだったということもあるだろう。

 …と、ここまでが終了すると正午前後から遅くとも午後2時くらいだ。ここで長めの休憩&昼食ということになる。現場の雰囲気はここから徐々に和やかになっていくのが常だった。なぜかといえば、これでもう撮影の大半は終わったも同然だからだ。

 もちろんまだ尺(収録時間)的には3分の1も終わってはいないし、撮影はまだ明日もあるのだが、実のところこれ以降はルーティンワーク的に取り組めばなんとかなってしまうのだ。当時の単体女優作品は、カラミは2~3シーンで、それに加えてフェラかオナニーという内容がほとんどであった。そして、ここからは取材も比較的自由に行えるようになり、女優さんから話を聞いたりオフショットを撮ったりということが俄然やりやすくなる。

 現場スタッフたちも仕事には関係ない話で盛り上がりながら、そのまま夕方くらいまで気楽そうに仕事を続けるのだ。女優も(新人でなければ)リラックスしてきて、雑談を楽しんだり雑誌を眺めたり、場合によっては学校や資格取得のための勉強を始めたりと、撮影の時間以外はかなり思い思いに過ごしていたりするのだ(しかしドラマ物であれば多少はセリフを覚える作業があるが)。

 女優もスタッフも基本的には集中して仕事を切り上げ、それぞれのプライベートを充実させようという雰囲気があったと思う。現在から見れば、なんて志が低い撮影現場かと思うかもしれないが、まぁ実態はこんな感じで、女優もスタッフもそれぞれの事情と考えでAV撮影に携わっていて、名誉よりも“実”を取るという意味で“アダルト”な世界だったのだ。

 このような撮影現場の思惑の中で、好都合なのが「擬似本番」である。カラミが擬似であれば、予期せぬハプニングによる中断もなければ、男優の「勃ち待ち」や「発射待ち」もない。射精シーンはペニスの裏に添えたスポイトから擬似精子をピュッと発射させるだけである。撮影が長引くこともなく、女優さんもカレシとのデートに遅れなくて済む(どういうわけなのか、撮影後にデートの予定がある女優さんが多かった)ということで、誰もが幸せに仕事を終えることができるのだ。

 もちろん、全ての撮影現場がこうだったとは言うつもりはない。同じビデ倫作品でも企画物はずいぶん違う状況であっただろう。しかし、少ないながらも筆者の体験では「ビデ倫単体」の撮影現場に関しては概してこのような感じであった。

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