タイチ選手に限らず、プロレスラーの女性トラブルは珍しいものではない。タイチ選手と同じく新日本プロレスに所属するイケメンレスラー・棚橋弘至選手は、02年に別れ話のもつれからテレビ番組ADの女性との情事後に背後からナイフで刺され、重傷を負っている。これは一般ニュースでも報じられるほどの事件となり、一部で二股交際だったとも伝えられるなど不祥事の一つとなっている。また、同じ新日本所属では“天才”といわれる30代人気レスラーの不倫疑惑がネットを中心に流れ、確定的な写真まで流出したこともあった。このいずれも処分対象にはなっておらず、なぜタイチ選手だけが処分されなくてはならないのかという疑問が上がるのも理解できなくはない。
「棚橋選手の場合、負傷しながらも自ら原付バイクで病院に駆け込み、人体の総血液量の約3分の1にあたる1.7リットルの血液を失って一時は意識不明になるも驚異的な回復力で生還。さらに女性と示談を成立させて相手を許し、執行猶予付きの判決に留めさせた。これはレスラーの超人的な体力と男気を物語る“武勇伝”の部類であり、彼が被害者だったこともあって処分対象にはならなかった。また、“天才”レスラーの不倫疑惑も火消しが早急だったことで大きな話題にはならず、団体側はスルーした。タイチ選手のケースは相手の暴走がすさまじすぎたというか…。といっても理由はそれだけでなく、処分されなかった二人は新日本の生え抜きであるという要素が何より大きい」(スポーツライター)
タイチ選手は今まで幾つもの団体を渡り歩き、フリーとして活動していた時期もある。新日本に入ったのは09年と年月が浅く、いわば“外様”の存在だ。ただでさえネット上の暴露が注目されてしまったうえに、生え抜きに比べて守られにくい存在だったのかもしれない。また、昨今のコンプライアンス重視の社会的傾向も影響しているという。
「一昨年から新日本プロレスの親会社になったブシロードは、カードゲームを中心に子どもの顧客が多い。レスラーをカード化したり、子ども向けカードゲームのCMに新日本のエースであるオカダ・カズチカを起用するなどしている。その戦略もあってレスラーはイメージ重視になり、レスラーにも私生活では品行方正が求められる風潮になっている」(前同)
新日本プロレスといえば、創設者のアントニオ猪木や「維新軍」で一時代を築いた長州力など、私生活で問題ありまくりの選手たちが人気を牽引してきた。かつては豪快なエピソードを持ったレスラーがあふれ、その破天荒さがプロレスの魅力につながっていたのは事実だ。だが、次第にレスラーの素行は大人しくなり、それとともにプロレス人気も低迷していった。時代の流れといってしまえばそれまでだが、本来は本業と無関係のはずの私生活トラブルが進退問題にかかわってくるような風潮は、プロレスの未来に何をもたらすのだろうか。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)