他人の妻を激安で買った男、しかも分割払い

※イメージ画像 photo by .nat from flickr

 明治期の新聞をながめていると、自分の妻を「売った」とか「抵当に入れた」「牛と交換した」などといった記事がしばしば登場する。まるで人身売買ではないのかと思って読んでみると、まさにその通り。ただし、その多くは金目当てというよりも、情がからんだケースが多い。カネがほしいというケースは、むしろ親が実の娘を遊郭などに売るというパターンがよくみられる。

 では自分の奥方を売ったというケースはというと、たとえば明治8年9月2日の『朝野新聞』に「女房の月賦販売」という記事が載っている。

 この年の8月23日のこと、新富町(現・東京都中央区新富)のある家に居候をしていたハチ(仮名)という男が、何と世話になっている主人の妻と「何か悪いこと」をするようになってしまった。男と人妻がやらかしてしまった「悪いこと」とは何かは、だいたい予想がつくものであるが、その悪いことをしているところを主人に見つかってしまったから大変。当然、主人は激怒し、ハチと奥方は逃げ出して近隣の知り合いの家へと身を寄せた。この手のことは、経験したものならすぐにわかるが、逃げていればいいというわけではない。この際も、ハチは親しい知人に間に入ってもらい、主人に詫びるとともに、奥方をいただきたいとの旨を伝えてもらった。そして交渉の結果、7円50銭で奥方を受け取るということで話が成立したという。

 つまり、不倫関係の末、人妻を現金で買ったというわけである。

 さて、7円50銭という値段だ。当時の金額を現在の価値の移すのはとても難しく、明治初期の1円については8000円程度という意見もあれば5万円くらいになるという見方もある。そこで、中ほどを取って3万円と考えると、7円50銭はだいたい現在の23万円くらいということになろうか。女性をこの価格で手に入れたならば、たしかに安い買い物であり、記事にも「人の女房を僅か7円50銭で買った」と記されている。

 ところが、ハチはこの時、手元に2円50銭しかもっていなかった。そのため、中に入ってもらった知人に立て替えてもらい、その後2ヶ月かけて残債を完済したとのことである。すなわち、奥さんをローンで購入したということである。

 一方、奥方を居候のハチに寝取られてしまった形の主人はどうしたかというと、即座に新しい奥さんをもらったというから、何ともお気楽な話である。記事でも「買ったものも買った奴、売ったものも売ったものではありませんか」と、呆れた調子で締めくくっている。だが、関係がもつれて泥仕合になるよりも、すっきりしていてよいのではなかろうかと感じるのは、21世紀の筆者だけだろうか。
(文=橋本玉泉)

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