当事者の告発によって明るみになった『ほこ×たて』(フジテレビ系)のヤラセ騒動。これを受けてフジテレビは24日、「収録の順番や対戦の運営方法について不適切と思われる演出が確認された」とし、「放送を当面自粛する」と発表した。
ヤラセ騒動の内幕については各報道ですでに触れられているので、今記事では“なぜそれが起こったのか”について検証していきたい。『ほこ×たて』の過剰演出の原因はどこにあるのだろうか。現役のテレビマンに話を聞いてみた。
「収録した素材を編集して作り上げるのがVTRです。その際、順番がいろいろ変わってしまうのはよくあることです。いちいちVTRの構成通りに撮影していたら大変ですからね。効率の良い順番で撮影しています。今回の『ほこ×たて』では、対決の順番がアベコベになったり、編集によって結果が捏造されたりということが問題になっていますが、ある程度は仕方がないように思います。こちらとしては面白いVTRを作るのが仕事なわけですからね。編集で何とかなるようなら、僕でも同じことをしたかもしれません。ただ、結果を捻じ曲げてしまったのはやりすぎだったのではないでしょうか」(業界関係者)
また別の関係者は不動の人気を誇るバラエティ番組『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)と『ほこ×たて』を比べてこんな指摘をする。
「『ほこ×たて』と同じVTRがメインの『イッテQ』の場合では、ロケ先でのあらゆる事態に備え、撮影の前から何通りもの台本が用意されていると聞きます。たとえば、内村さんがマグロ漁に挑戦するといった企画の場合では、釣れるのか釣れないのかだけでなく、いつどのタイミングで釣れるのかという点にまで焦点を絞って、いくつもの台本が用意されているというのです。『ほこ×たて』がどういったスタイルで撮影に臨んでいるのかわかりませんが、『イッテQ』では、かなり細かいところまで計算し、あらゆるハプニングに備えて台本を練り、VTRを作っているというわけです。そして、『イッテQ』のすごいところは、そうした作為がVTRからまったく感じないところですよね。ものすごく丁寧に作りこんでいるのに、抜群に面白いため、バラエティではネガティブな印象を与えてしまう作為が見事に隠れているのだと思います」(制作会社関係者)
元々用意した、刺激的で理想といえる台本に無理やりにでも合わせようとする『ほこ×たて』と、ロケ先のあらゆる事態に備えて、いくつもの台本を準備しているという『イッテQ』。一見するとスタイルはまったく異なるが、両者に共通するのは“作り込んでいる”という点でもある。だが、その作り込み方が、一方は撮影後の編集で、一方は撮影前の準備でという具合に異なる。どちらがより労力を使うかといえば、もちろんそれは後者に決まっている。理想の展開を想定し、それが撮影できなければパソコン上でデッチ上げてしまうというのなら誰でもできる。
バラエティとは作り込むものだと言われるが、その方法があまりにも安易だとヤラセと非難されてしまう。逆に丁寧に作り込まれていればそれは面白いものになる。安易さにかまけた『ほこ×たて』はまさにヤラセと糾弾された。そうした結果をテレビマンのモラルの欠如と言ってしまえばそれまでだが、何より『ほこ×たて』には面白さを追求する執念が足りなかった。もしくは面白さの意味を履き違えていたのかもしれない。ヤラセと演出の線引きは難しいが、本当の面白さを理解していれば、そこにはっきりとした区別ができる。あまりにも安直な行為に走った『ほこ×たて』スタッフには、改めて本当の面白さについて考えてもらいたい。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/)
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