人気ドラマ『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』のパロディAVが、CSなどの成人向け番組専門チャンネル「パラダイステレビ」で10月に放送されることが発表された。ところが、パロディAVの存在を知った本家『SPEC』のプロデューサー・植田博樹氏が激怒し、法的手段も辞さない構えでパロディ側を批判。この影響かパロディ側は公式サイトやTwitterアカウントを消したが、今度は植田氏の態度や言動に批判が殺到し、本家側も公式アカウントを一時削除するなど混乱が続いている。
戸田恵梨香と加瀬亮のダブル主演でヒットした『SPEC』は、捜査一課が手に負えない特殊な事件を捜査する未詳事件特別対策係(通称ミショウ)を舞台に、戸田演じる天才だが相当な変人の当麻紗綾(とうま・さや)と、加瀬演じる警視庁特殊部隊(SIT)出身の瀬文焚流(せぶみ・たける)が、常人にはない特殊能力「SPEC」を持った犯罪者と対決する刑事ドラマ。ドラマ終了後も人気は衰えず、スペシャルドラマ1本、劇場版1作が公開されており、今年11月にも劇場版完結編の前・後篇2作が控えている。
この人気ドラマのエロパロディとして、パラダイステレビは今月17日に『SPEX(スペックス)~未確認性行為特別対策係事件簿』の制作を発表。10月からスカパー!などの同社枠で放送されるとアナウンスした。ストーリーは、特殊能力を持った性犯罪者を追っている女性刑事「トンマ・サヤ」とオナニーが趣味の男性刑事「エブミ」の元に、「未来で中出しSEXされる」と予言された女性と占い師が訪れるというもの。凝った公式サイトも制作され、一部AVファンから質の高いパロディとして期待を集めていたが、これが植田氏の知るところになったことで事態は一変した。
植田氏は19日、本家『SPEC』の公式Twitterでパロディ側のアカウント宛てに「やめてください。訴えますよ」とツイート。さらに「ひとまず、パラダイステレビには法的手段も、打ちますと、連絡しました」と記し、担当者と直接交渉していることを明かした。植田氏によると、その後のパラダイステレビ側の対応は「完全なオリジナルのアイデアであり、著作権侵害でも、出演者に対する名誉毀損にもあたらない、との見解を展開。向こうも弁護士をたてるそうです」というものだったそうだ。この間に『SPEX』の公式サイトとTwitteアカウントが突如削除された。パラダイステレビ側は「植田氏の指摘と関係ない部分で不手際があったため」と、サイトを削除した理由を説明している。
このやり取りをTwitter上で公開していた植田氏に対し、ファンからは植田氏への賞賛や同意のコメントが寄せられたが、その一方で「器が小さい」「公式アカウントでやるべきことじゃない」「作品のイメージを落としてるのはあなただ」「人気がある証拠なんだから許してあげたら」などといった批判も殺到。これらの批判に対して、植田氏は「自分の大切な作品をAVにされた製作者の気持ちを理解してくれとは言いませんし」と前置きしながらも「自分の大切な家族や恋人の顔をAVのパッケージにアイコラされて、ネットでさらされているようなもんですよ」「出演者やスタッフが、睡眠時間削って作った作品を、さんざ茶化されて、戦わないなら『作品を守る』ってなんなんですかね」と反論した。
だが、この一連のツイートは間もなく削除され『SPEC』公式アカウントも一時消えてしまった。現在、同アカウントは復活しているものの「今後は宣伝チームによる告知のみとなります」と但し書きが加えられている。
人気ドラマを題材にしたパロディAVは珍しくなく、松嶋菜々子主演の『家政婦のミタ』(日本テレビ系)を元ネタにした『家政婦の股』『家政婦はミテタ!!』や、仲間由紀恵主演の学園ドラマ『ごくせん』(日本テレビ系)のパロディである「こきせん」など数えきれないほど存在する。
だが、問題の『SPEX』はCSなどでテレビ放送されることもあり、今までのケースとは状況が少し異なっている。また、削除された公式サイトなどでビジュアルを確認した限り、かなりパロディとして質が高く、その再現度がアダになってしまった部分もありそうだ。それだけでなく、公式サイトで「あの戸田恵◯香主演の人気刑事ドラマ『SPE○』がエロパロディで完全再現」などとうたっていたことや、パロディ側が宣伝ツイートに「#spec あっ間違えた #spex」などと本家のハッシュタグを入れたことも植田氏を怒らせる原因になった可能性がある。
今回と似たようなケースとしては、コスプレ系AVを制作している有名メーカーがアニメ化や映画化もされた人気ゲーム『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』のパロディAVを制作した際、著作権者から表現の一部流用を指摘され、作品の出荷停止・回収をしたことがあった。また、同人誌の世界でも人気ゲーム『ポケットモンスター』のエロパロディ本を制作した同人作家が逮捕されたり、二次創作として作られた人気漫画『ドラえもん』の“最終話”の作者に小学館や藤子プロが厳重抗議した騒動などが起きている。
AVの世界に限らず、パロディがどこまで許されるのかという線引きは非常にデリケートで難しい問題だ。パロディ作品は内容によっては制作者やファンが激怒するような物もあるが、法的手段までチラつかせて相手を委縮させれば、パロディという表現文化を殺してしまうことにもなりかねない。
『SPEX』が予定通り放送されるのか気になるとともに、今回の騒動はAVの世界を飛び越えて我々がパロディ問題についてあらためて考えるきっかけになったともいえそうだ。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)