ホステスとキャバ嬢、ホストクラブとホスクラ 似て非なるお水の世界

※イメージ画像 photo by mxmstryo from flickr

 深夜の歌舞伎町。街を貫くように縦に走るメインストリートの区役所通り。職安通りにぶつかるその北端は歌舞伎町の最奥部ということで酔客があまり立ち入らない場所である。さらにその奥、大久保百人町は住宅地で、夜の歌舞伎町で働く人たちが多く住む。この住宅地へと続く静かな区役所通りの奥で、ひとりの女性が大声を上げる光景が目に入った。

 ちょっと崩れた独特の髪型が私服には似つかわしくない若い女性。おそらく区役所通りの中心部あたりに店舗がある接客社交業に従事しているのだろう。彼女はちょっと酔っているのか、なんとなく足元がおぼつかない様子だ。数名の制服警察官が彼女を取り囲み、ペンライトのようなもので身分証明書らしきカードを確認している。歌舞伎町でお馴染みの深夜の職務質問だ。

 無線で身分照会が行なわれる。犯歴や非行歴、若い女性ということで未帰宅者や行方不明者としての照会もされているようだ。無線を手にした警官の顔色がほんの少し変わる。目配せすると、それを合図に、他の警官たちが柔らかい口調で所持品検査を女性に求めた。

 ここは深夜の歌舞伎町。おそらく総合照会で引っかかったのは、Z号と呼ばれる違法薬物の使用歴だ。警察を追いかけたドキュメンタリー番組のワンシーンのようだが、歌舞伎町ではよくある光景だ。

 若い女性は大人しく所持品検査の求めに応じた。改めて彼女の氏名や住所を無線担当の警官が本部に告げる。ところが、彼の不用意な一言で彼女が激昂した。

「住所は○○、職業はホステス」

 すかさず抗議の表情で女性は言い返した。

 
「ホステスと違う! キャバ嬢だ・か・ら!」

 
 厳しい目で警察官を睨む。「ごめんごめん」と苦笑いの警官は彼女をなだめるように謝罪した。なぜ、彼女は怒ったのだろうか? ホステスとキャバ嬢は違う存在だとでもいうのか。

 
◆キャバレーから生まれた高級クラブ

 キャバレー・高級クラブ・キャバクラ…ネオン街の商売でもっとも華やかな接客社交業。女性たちが華やかさを競う世界だ。接客社交業にはさまざまな業種がある。職務質問の若い女性は、何にこだわり、何に怒ったのであろうか? 歌舞伎町の高級クラブ店長として30年間、ネオン街の花形ビジネスを陰で支える存在である黒服に、その業種の違い、職業意識、その成り立ちなどを尋ねた。

「お酒の相手をし、テーブルを盛り上げ、楽しませ、ひと時の癒しを与える。接客社交業としての仕事そのものはホステスもキャバ嬢も基本的に一緒です。大きな違いがあるとすれば、料金システムなどの各業種の営業形態です。その若い女性はおそらくホステスと言う言葉に、旧時代的な存在であるとか、そこまでどっぷり水商売に浸かってはいないぞ、という気持ちがあったのでしょう」

 昭和の高度成長期、ビジネス最前線で戦い続けた企業戦士が安らぎと発散を求め、全国の名だたるネオン街は大きく発展した。当時、社交さんと呼ばれたホステス業に従事する女性たちが勤務したのが時代の隆盛を極めたキャバレーやサロンだ。

 その大衆的なキャバレーやサロンから派生するように、利用客が優越感やVIP感を求めて誕生したのが、会員制高級クラブだ。客としてのステータスを店側に認められなければ利用できないネオン街の最高ランクであり続ける業態だ。

「会員制高級クラブは企業接待などにも利用されることから、売掛金として請求書を回すことも可能です。そのための社会的身分と経済力が利用客に求められるのです。ホステスの接客も、単純に客を楽しませるだけでなく、接待企業の社員になった気持ちでのサービスを求められる場合もあります」

 明朗会計で現金商売のキャバレーの営業システムに対し、高級クラブは新たなシステムを生み出した。

「キャバレーやサロンにはない永久指名制を取り入れ、ホステスが指名を得た利用客を個別に担当し、その売り上げに応じて給料がスライドする。客の売掛金をも管理します。ホステスにとってより稼げるシステムとなったのです。その分、会員制高級クラブはビジネス接待の利用が多いので、高度な接客テクニックとプロフェッショナルな職業意識が必要とされます」

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