20日に放送された朝の情報番組『ZIP!』(日本テレビ系)の特集がネット上で物議を醸している。初音ミクなどが有名な歌声合成ソフト『ボーカロイド(通称ボカロ)』を軸に、ネット上でボカロ楽曲を発表する「歌い手」やボカロ曲のカラオケ人気などを紹介した企画だったが、その内容のいい加減さが指摘されて大批判を浴びる結果に。さらに、なぜかボカロファンとAKB48ファンのバトルまで勃発している。
同番組では「カラオケに異変!? ボカロを歌う若者急増」と題し、昨今のボカロ曲のカラオケ人気を紹介した。だが、なぜボカロ曲が人気なのかということについてイラスト付きチャートで「ボカロを作成→歌い手が映像を投稿→カラオケでボカロを歌うきっかけに」と番組内で説明されたため、ネット上でボカロファンから反発が起きた。
ボカロのムーブメントは「ボカロP」と呼ばれる作曲者が曲を制作し、動画サイトなどで発表することからスタートした。この流れは変わることなく、ボカロPが制作した原曲がなければ何も始まらない。これに「絵師」と呼ばれるイラスト担当者や動画職人らが協力してPVを制作し、爆発的な人気につながったという背景がある。ネット上でボカロPの作品を閲覧し、それがきっかけでカラオケに歌うようになったファンが多いようだ。
番組で紹介されたような「歌い手がボカロ曲の人気を押し上げた」という面はあまり感じられず、これに矛盾を感じたネットユーザーから「歌い手がきっかけでカラオケ歌うなんてねえよ」「ボカロPの存在はどこいった」などといった批判が飛び出した。
また、「ボカロを作成」という言葉自体が日本語としておかしく、本来なら「ボカロで曲を作成」という表現が適切という指摘もあった。これがもし「ボカロソフトを作成」という意味であれば、ボカロPの存在は完全に消えてしまう。さらに、番組中に紹介した楽曲の曲名と使用ボカロ名を間違えて放送し、謝罪訂正した一幕もあったため「いい加減すぎる」「手抜き企画」などといった批判につながることになった。
『ZIP!』のボカロに対する扱いに関しては、以前に同番組で初音ミクを特集した際に作曲者にも取材しており、全く理解がなかったというわけではないようだ。だが、今回は歌い手にスポットを当てた企画だったため、ボカロシーンの解説が雑になってしまったようである。
騒動はこれだけにとどまらず、なぜかAKBファンとボカロファンの争いにまで発展した。番組中に20歳以下を対象にしたカラオケランキングが紹介され、トップ10のうち7曲がボカロ曲で一位は黒うさP feat.初音ミクの「千本桜」だった。ところが、一部のAKBファンから「千本桜はAKBの歌なのに、勝手にボカロの曲にされてる」といった批判が噴出し、ネット上でボカロファンとのバトルが繰り広げられている。
「千本桜」は黒うさP氏が制作したれっきとしたボカロ曲だが、同曲がミュージカル化された際にAKBメンバーが出演し、同曲のカバーも披露していた。それを発端に「千本桜はAKBのもの」という論調が一部で生まれ、ボカロファンとの間で衝突が続いているようである。一部のAKBファンはわざと挑発的な発言をしている面があるようだが、「千本桜の原作者は秋元康」「ボカロ曲だとしても千本桜はAKBが有名にしたのだからAKBのもの」といった主張がボカロファンの逆鱗に触れ、現在も激しい応酬が繰り広げられている。
熱狂的なファンが多いだけに扱いによってはネット炎上にもつながるボカロ。少し過敏すぎる印象も否めないが、テレビ番組が正確に報道していれば炎上することもないはずだ。今後は正しい情報が伝えられることを期待したい。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)