昔の日本では、離婚や再婚についてはそれほど悪いイメージはなかったらしい。もともと日本では、カトリック圏のように宗教上の戒律で離婚が禁じられているわけではなく、武士階級などには「二夫に見えず」といった儒教的な考えはあったものの、庶民はわりと自由に離婚や再婚をしていたらしい。
しかし、それでも離婚はしないにこしたことはない。そのため、結婚時には夫婦の結びつきを願うさまざまな慣習が行われていた。
たとえば、九州北部では娘が嫁に行く際、母親は見送りながら地面に茶碗などをたたきつけて割るという風習があったらしい。こうした、婚礼に際して食器などを割るという慣習はいくつかの地域でみられる。「割る」などというと、今日では縁起がわるいように思われるが、むしろ、形あるものを壊すことで「やり直しは出来ない」ということを暗示し、後戻りするようなことがないように、娘が実家に帰るようなことがないようにといった、願掛けの意味合いで行われたのではないかと考えられている。
さらに、もっとダイレクトに新婚両名を「かたく結び付ける」儀礼も伝えられている。山形県や山口県などの一部では、新郎新婦を抱き合わせ、縄やヒモ、帯などでぐるぐる縛ってしまう風習が行われていたという。その方法も地域によってさまざまで、形ばかり軽くゆるりとヒモをかける程度のものから、かなりきっちりと縛りつけるケースもあったとのことだ。なかには、2人を布団に押し込んで、上から縄で縛ってしまう。「存分に夫婦の営みをしろ」という意味合いだそうだが、それでは身動きも出来なかろう。
また、新郎新婦を全裸にして縛っていたという地域もあったと何かの文章で読んだ記憶があるが、今回調べなおしてみたものの、確認することができなかった。だが、婚姻の際に新郎新婦に水を浴びせたり、衣服をはいだりする慣習が諸地域であったことから、全裸というのは大げさにしても、それに近い行為があったとしても不思議ではないと思われる。それにしても、全裸の若夫婦を縛り上げるとは、緊迫プレイそのものであろう。
こうした新郎新婦の縛りつけは、どちらかというと願掛けやおまじない的な要素が強い。ちょっとした余興のようにも感じられる。
しかし、新婚夫婦が確実に「夫婦になった」か、すなわち、新婚初夜にセックスが行われたかどうかを確認する慣習もまた、広く各地で続けられていたようである。そちらについては、また機会があればご紹介したい。
(文=橋本玉泉)