元AKB48の前田敦子(21)と俳優・成宮寛貴(30)がW主演したホラー映画『クロユリ団地』(公開中)がヒット中だ。近年は国内ホラー不作ともいわれていたが、同作は公開初週、二週目と興行成績ランキングで1位を獲得。初週から二週連続の1位は、今年公開の邦画で初の快挙だ。三週目に2位、四週目に4位と徐々に順位は下がっているものの、累計興収はすでに7億6,800万円を超えており、10億円到達が確実視される健闘ぶりとなっている。業界の評判も上々であり、特に前田の演技は「鬼気迫るものがあった」「アイドル時代の影を感じさせない」と評判だ。
前田といえば、AKB時代に主演した映画『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』が空前の大コケを喫し、卒業後に出演した映画『苦役列車』も不入り。ドラマでも、人気作をリメイクした主演ドラマ『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス~2011』(フジテレビ系)が平均6.9%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)という驚異的な低視聴率をたたき出し、現在出演中のドラマ『幽かな彼女』(フジテレビ系)も平均視聴率11%前後と低調。一部では「大コケ女優」「低視聴率女王」とまで揶揄されていた。
だが、今回の主演映画の大ヒットで汚名返上できそうな気配だ。
「AKB時代は明るいヒロインを演じることが多かったが、今作では一転、無表情な暗い顔で主人公を好演しています。以前から『前田は暗い役が合うはず』といわれており、やっと自分に合った役柄に恵まれたようですね。今作は観客に女子中高生のグループが目立つようですが、その世代にとって前田の知名度は抜群。ホラーの久々の話題作でもあり、加えて前田の好演、知名度、それらの相乗効果で観客を呼び込んでいる」(映画関係者)
これまでは前田を起用しても観客動員に結び付かず、ネットでは「チケットに握手権でもつけたら」というジョークまで飛び交っていた。しかし、今作は確実に前田の存在が観客動員を押し上げているようだ。女優として脱アイドルを図ってきた前田にとって、この作品が大きな転機となるのは間違いなさそうである。
「ホラー作品はイメージを気にして敬遠する女優が多く、若手がステップアップのために出演するパターンが大半。しかし、それなりの公開規模の作品となると無名女優を使うわけにはいかない。そこで知名度はあるものの女優としては経験の浅い前田が起用されたわけですが、この判断がピタリと当たった。他の人気女優との差別化を図る意味でも、今作は『女優・前田敦子』の試金石になります」(前同)
いまや人気女優として不動の地位を築いている中谷美紀(37)は、前田と同じく元アイドルグループメンバーという経歴があり、今作と同じ中田秀夫監督のホラー映画『リング』への出演を機にブレイクした。前田も今回のヒットによって、本格的に脱アイドルを果たして女優としての評価が高まる可能性がありそうだ。
この急成長ぶりの裏には、前田の勤勉さがあるといわれている。映画の勉強のために作品鑑賞にいそしんでいるという彼女は、雑誌のインタビューで「一カ月に57本観にいった」と発言するほどの映画フリークになっている。映画マニア御用達のミニシアター『早稲田松竹』にも観客として姿を見せており、自宅には1000本近い映画のDVDを所蔵しているという。
勤勉なのは結構なことに思えるが、これに不安を唱える声も上がっている。一部スポーツ紙では「あまりにも知識ばかりを詰め込んでしまうと理屈っぽくなる」と指摘されており、頭でっかちの女優になってしまうのではと危惧されているようだ。
「それはまだ大丈夫だと思いますよ。映画の宣伝企画で成宮とホラー映画について語り合った際、成宮が好きな作品として『テキサス・チェーンソー ビギニング』を挙げると、前田は全く知らなかったようで『え、チェーンソーで殺しちゃうんですか? それ、気になります』と答えていました。当然、リメイク元である有名な『悪魔のいけにえ』も知らない様子でしたから、映画マニアには程遠い状態。今までほとんど知識がなかったのでしょうから、映画の勉強をするのはプラスにこそなれ、マイナスにまではならないでしょう」(映画誌ライター)
これまで映画の知識がなかったからこそ、無限大の伸びしろがあるともいえる。この大ヒットを追い風にして、女優道を突き進んでほしいものだ。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)