「乳首」の扱いで差が出た大新聞の自主規制

※イメージ画像:『鏡の国のおっぱい―美し
い日本の乳房』
著:伴田良輔/二見書房

 今やインターネットでヌード画像やセクシャルな行為の動画など、無料でしかもまったくの無修正で閲覧できる時代である。雑誌ですら、さすがにネットほどの無法地帯ではないものの、フードグラビアなどはヘアヌードがごく普通に掲載されている。

 だが、ネットが普及する前までの、ほんの20数年前まで、既存のメディアは雑誌も新聞も、非常に厳しい自主規制がなされていたのである。

 古い話だが、昭和40年代初期まで、新聞や一部の雑誌などでは「女性のお尻の割れ目」ですら規制の対象となっていた。当時のスポーツ新聞などを見ると、ポルノ映画の広告などで女優さんのうしろ姿のショットには、ヒップ部分にボカシが入っているケースがある。これは40年代半ばにはそうした規制はなくなったようで、無修正のお尻の写真が普通に掲載されるようになった。当時の規制についてのひとつのエピソードではある。

 しかし、さらに別の規制があって、長きにわたって続けられていたものがある。それは、「乳首」に関するものである。

 出版や印刷などの業界全体からすれば、女性の乳首に対する規制など無いに等しかった。昭和20年代の成人向け雑誌などを見ると、グラビアのページには乳首がはっきり写った女性のヌード写真が当たり前のように載っている。雑誌も書籍も写真集も、ほとんどの出版物や印刷物も同様である。

 ところが、『朝日』『毎日』『読売』といった大手全国紙だけは、乳首を規制した。広告などで紙面にむき出しの乳首の写真が掲載される場合には、星型のスミベタで隠したのであった。

 それが、昭和60年(1985)8月6日に、『朝日新聞』と『毎日新聞』で解禁されたのである。具体的な画像は、『週刊プレイボーイ』(集英社)の広告だった。ただし、大手新聞すべてが足並みをそろえたわけではなく、『読売新聞』はこの日の同じ公告について、従来通りに星型ベタで隠す規制を続けていた。

※イメージ画像:『朝日新聞』昭和60年8月6日の夕刊より
『読売新聞』昭和60年8月6日より/こちらはまだ乳首が星印で隠されている

 ただ、自主規制で隠していたからといって、大手新聞が乳首を「わいせつ」と考えていたかどうかは定かでない。その意図について、何人かの新聞記者たちに聞いてみたことがあったが、明確な答えは得られなかった。というより、現場の記者たちは、そうした編集サイドの問題にはあまり関心がなさそうだった。

 それにしても、こうした「乳首を隠すかどうか」といって点一つを取り上げてみても、わが国の新聞というものが、どこか悪い意味での保守的な要素を払拭できない体質があるのではなかろうかと、考えてしまうような次第である。
(文=橋本玉泉)

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