アスコム
政府主導で日本の文化を世界に売り込む「クールジャパン」構想。日本を代表するマンガやアニメ、ゲーム、ファッション、食などの文化を海外発信するため、政府は官民出資の新会社を設立する方針を固めており、成長戦略の柱として出資金500億円が計上されるという巨大プロジェクトになっている。
この国家的プロジェクトの戦略を検討する『第2回クールジャパン推進会議』が3日に政府主催で開催されたが、民間議員を務めるAKB48の総合プロデューサー・秋元康氏が、日本のクリエイターに無報酬で協力を求める主旨の発言をしたため、ネット上などで物議を醸している。
同会議では、同じく民間議員に選ばれたファッションデザイナーのコシノジュンコ氏や茶道裏千家家元の千宗室氏ら日本文化に携わる大物たちが、発信力強化のための具体策を提案。その中で秋元氏は「日本中の優秀なクリエイターにひと肌脱いでもらうべきだ」と発言し、国内のアニメや芸術のクリエイターにポスターやキャッチコピーづくりに無報酬で協力してもらうよう求めるべきだ提案した。
この発言が複数のメディアで報じられると、アニメやアートなどのポップカルチャーの分野で活躍している関係者らが猛反発。Twitterなどを中心に「何百億も予算があるのに無報酬での協力を求める意味が分からない」「浮いたカネは秋元さんの懐ですか」「そんなこと言うならAKBを無報酬で協力させろよ」「クリエイターをバカにしている」「こんなことしたらギャラの相場が下がって文化が壊滅する」などといった批判コメントがあふれる事態になっている。そもそもクールジャパン構想は「国内独自の文化やコンテンツを大切にして産業としても大きくする」という主旨であるにもかかわらず、その文化を創り出すクリエイターをタダ働きさせようとする秋元氏の提案に矛盾を感じた人が多いようだ。
なぜ、このような発想が出てきたのだろうか。このウラには、「クールジャパン構想」の歪んだ構造があるようだ。
「推進予算500億円という数字だけでも巨額ですが、経産省は『クールジャパンファンド(仮称)』の設立も構想しており、国から400億円、民間からは400億円が出資される見込みとなっています。出資先には、日本式の飲食店や服飾店などを集めた商業施設を海外に設立する企業や、海外で日本のアニメやテレビ番組などを放映する企業などが想定されていますが、これは体のいい海外バラ撒きといっても過言ではない。国内においても、官民出資の新会社から投資先や支援先に選ばれた企業が潤うだけ。本来最も大事にすべき存在である最前線で文化を開拓するクリエイターは、カネに関しては最初からカヤの外というわけです」(週刊誌記者)
クールジャパンとしてもてはやされ出した日本のポップカルチャーだが、その代表格といえるアニメ業界は、大手新聞の調べによるとアニメーターの平均年収が20代で110万円。多くは薄給に耐えきれずに辞めてしまい、わずかに生き残ったエリート的な人々も30代で214万円、40代でも401万円という厳しい状況だ。アニメ以外のカルチャーでも、景気のいいクリエイターは極々少数であり、才能ある人でも金銭的な理由でモノ作りから離れてしまう残念なケースは少なくない。本当に国内文化を大事にするつもりがあるならば、税金を企業に投入するよりも、まずはクリエイターの支援をするべきではないだろうか。そういった意識があれば「無報酬で」などという発想は出てこないはずだが…。
『ニコニコ動画』などで報酬を目的とせずにユーザーたちが作品を発表し合い、大きなムーブメントになるパターンもある。だが、予算を持つ側が最初から無報酬を推奨するべきではないだろう。「クールジャパン」を成長分野に位置づけて国内文化の価値を見直すのは結構なことだが、クリエイター達の血と汗の結晶を横からかすめ取り、税金バラ撒きの口実にするようなプロジェクトにはしてほしくないものだ。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)