評判になりながらイマイチ視聴率の振るわなかったドラマ『最高の離婚』(フジテレビ系)。最終回の視聴率は12.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)で、全話平均は11.8%と、女性誌などで特集を組まれネットの評判も上々、業界内外からの評価も高かったドラマにしてはいささか寂しい数字が並ぶ。その要因として考えられているのが、録画機器の発達やパソコンや携帯電話によってドラマを見る録画視聴者という存在。これだけテレビの周辺機能が発達しているのに、いまだに無作為抽出の世帯調査で視聴者を図るしかないという尺度は、とうに限界を超えているのかもしれない。
一部報道によると、録画視聴者も含めれば視聴率30%以上になるのではないかと報じられた『最高の離婚』。確かにネットも何もない時代なら、それくらいはいったかもしれない。それだけ話題になっていたし、また、かくいう記者も久しぶりに興味深く見たドラマであった。もちろん昨年離婚したという記者の個人的な事情が、よりドラマへの関心を深めたのは間違いないだろうが、それを抜きにしても離婚というテーマを軸に家族や夫婦というものをコミカルにそして深く掘り下げたストーリーは見ごたえ十分だった。
ドラマを見ていない人のために内容を簡単に説明すると、ある日突然、妻から離婚を言い渡された夫の話ということになるだろうか。その社交的で奔放な妻を尾野真千子(濱崎結夏役)が演じ、三行半をつきつけられた面倒くさい夫を瑛太(濱崎光生役)が演じている。一般的には、離婚ともなればすぐに段取りを組んで別居ということになるだろうが、そこはドラマ、周囲に離婚を言い出せない2人はなんだかんだで離れられず、近所に住んでいる婚姻届を出していないというワケあり夫婦の真木よう子(上原灯里役)と綾野剛(上原諒役)とすったもんだを展開し、お互いを見つめなおしながら、夫婦とは何か? 家族とは何か? と考え、最終的にはハッピーエンドという話になっている。
一癖も二癖もある役を演じる瑛太を中心にコミカルに展開するドラマでありながら、ときおり漏れる本音を含んだセリフが視聴者の心を掴んでいるようで、ネット上には「最高の離婚 名言集」というようなサイトも作られているほど。特に尾野や真木のセリフに同世代の女性は強い共感を持つ様子。たとえば、「自分好きになるより人を好きになる方が簡単だし、人を好きになったら自分のことも好きになる」という真木のセリフや、「料理教室行ってわかったこと。料理は上手になるかもしれないけど、作る気持ちは育たないですね」「思い出が増えていくのが家族なんだと思うの」という尾野の言葉は、女性ならではの本音がストレートに表現されているようだ。
また、劇中では、「死ねばいいのに」「愛してないけど結婚する」「幸せになるのが苦手」「幸せになってくださいって最大級の別れの言葉だよね」といった一瞬ドキッとするようなセリフも多く散りばめられている。離婚というものをテーマにしながら、登場人物の恋心を描くという矛盾した設定が、こうしたセリフを生み出したのだろう。しかしそもそも結婚自体が矛盾の塊みたいなもの。他人同士が一生仲良く手を取り合って生きていこうなんて、所詮無理な話だ。相手の心の中など見えるはずもないのだから、そこのところをきっちり割り切っておかなければ幻想に押しつぶされてしまう。その冷静さを所々セリフに散りばめた点で、このドラマは、ただの離婚ドラマでもなく、ただの恋愛ドラマでもないレベルに達することができた。
劇中、綾野が「離婚は最悪の結果じゃないと思います。何も愛情がないのに期待もしてないのに一緒にいるのが一番不幸ですよね。今度は最高の結婚をして下さい」と言うが、まさにその通りだ。そして瑛太と尾野は、お互い持っていた結婚や家族というものへの幻想を捨てて再びヨリを戻す。べつにそれは最高の結婚ではない。それでも2人はもう一度お互いを選んだ。我慢してケンカして、たまに仲良くして、嫌いになったりとてつもなく愛おしくなったり、それでもずっと一緒にいる、それが結婚というものなのだろう。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/)
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