肩叩きにあえぐAKB中堅メンバーはミュージカルに活路を見出す

※イメージ画像:『この涙を君に捧ぐ』キングレコード

「歌がすごく好きで、ステージに立つのもすごく好きなので、ミュージカルをしてみたい」――19日に行われた海外ドラマ『リベンジ シーズン2』アフレコ会見の席上で、AKB48からの卒業を予定している河西智美がこう発言した。

 実はここに来て、AKBや元AKBメンバーのミュージカル出演が急増している。昨年『宮本亜門ミュージカルWIZ~オズの魔法使い』に出演した二期生の増田有華は、この作品で出会ったISSAとのスキャンダルだけでなく、作品で培った女優としての経験値に自信を得てAKBからの卒業を決めた。この夏には、ブロードウェイミュージカル『フットルース』の出演も決まっている。

 同じく二期生の秋元才加は『ロックオペラ モーツァルト』での好演を評価されており、同作は国内最大級の観客席数を誇る「東急シアターオーブ」で立ち見まで出すという成功を収めた。4月以降の卒業を予定している五期生の仁藤萌乃は7月に公演する『ピーターパン』のウェンディ役が決まっている。さらに、3月13日~24日公演『ニコニコミュージカル千本桜』に五期生・石田晴香、十期生・市川美織が出演したが、演劇関係者やミュージカルファンから高い評価を受けている。

 ボーカロイド・初音ミクが歌う大人気曲を原作にしているため、ボカロマニアから「原作を汚すからAKBは出演するな」とまで叩かれ、大ブーイングが巻き起こった作品だけに、うれしい誤算だろう。いざ幕を開けてみると、石田の力強く伸びのある声は観客の心をわしづかみにし、市川は台詞こそ少ないものの、歌も台詞も滑舌の悪さをネタにしていた“みおりん”とは別人のようにミュージカル女優然とした出来栄えだった。この作品を見に来たメンバーも相当刺激されたようで、ブログやTwitter、Google+などで興奮さめやらぬ感想を書いている。

 彼女たちはいずれもシングル曲の選抜常連ではなく、いわゆる推されメンでもない。しかし活動年数は長く、世代交代を謳う現在のAKB運営からは肩叩きにあっているとも言われる。握手会と劇場公演に追われる彼女たちが、舞台に活路を見出したとすればファンにとっても喜ばしいことだが、この現象を演劇関係者はどう捉えているのだろうか。

「アイドルがグループを卒業して舞台に出演というのは、比較的よくあることです。たとえばモー娘。の安倍なつみや保田圭も、卒業後はミュージカルを中心に仕事をしています。一部の人は、テレビや映画に出ないと落ち目だと勘違いしますが、生で客の前で演技をし、歌うという舞台は本当の意味で役者の力量が試される場所。成功すれば役者としての評価もあがります。特にAKBは日頃から劇場でお客さんの前で公演をしていますから、そういう意味で演劇やミュージカルとは近いものがあるのでしょう。ミュージカルにつきもののダンスも、質は違うとはいえ毎日踊っているわけですから、振りの覚えも早いですしね。アイドルのくせに、と差別的な目で見る舞台人はそう多くはないと思いますよ」(演劇関係者)

 また、秋元康はAKB発足当初から演劇界への進出を構想していたという。

「AKBは09年に『AKB歌劇団 ∞・Infinty』というミュージカルをやっています。この当時は秋元さんは『少女たちの小劇団を作りたかった』とまで言っていて、演劇にも相当興味を持っていた。また、AKB歌劇団で秋元才加が舞台女優としての才能の片鱗をみせたことが、他のメンバーにとって大きな刺激になったことは間違いないでしょう。ただ、このときの演出を手がけた広井王子との間で、口パクについてのもめ事(※運営が口パクを申し入れ、広井が断固拒否して生歌で上演した)があったり、後に懇意になった秋元才加と彼のスキャンダルにもつながってしまったわけですが…」(アイドルライター)

 考えてみれば、AKBには渡辺麻友や小林茉里奈のように熱狂的な宝塚ファンのメンバーも在籍しており、岩田華怜や宮脇咲良(HKT48)のように、子役時代にミュージカル経験のあるメンバーもいる。舞台の世界は、彼女たちにとってテレビよりも身近なものなのかもしれない。卒業後の仕事について考えたとき、前田敦子のようにすぐに映画の主演が舞い込むわけではない中堅メンバーにとって、増田や河西、仁藤らの活躍は「努力が報われた実例」として、心の支えになることだろう。

 今のブームが去った後、AKBが宝塚のような、実力ある舞台女優・ミュージカル女優を輩出するような組織になるのも、一つの未来としてアリかもしれない。
(文=潜水亭沈没)

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