先週、お笑い芸人ダイノジの大谷ノブ彦(41)が、伝統的ラジオ番組『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)水曜1部を、4月3日より担当することが発表された。『オールナイトニッポン』といえば、ビートたけしやタモリ、とんねるず、ウッチャンナンチャンなどそうそうたる芸人たちがパーソナリティを務め、現在も木曜をナインティナインが担当している、芸人にとって憧れの番組。そんな夢の枠に、なぜダイノジの大谷が突如選ばれたのだろうか? 失礼を承知で言えば、ダイノジは実力は認められながらもくすぶっていた感が強く、若手とは言いがたい。
「大谷さんの熱のあるトーク。いまの10代に本当に聞いてもらいたいと率直に思っています。この番組をきっかけに音楽・映画、そして生きざまを知ってほしい」と番組担当チーフディレクターが語っているように、大谷は自ら主催するトークライブや、「ジャイアンナイト」というクラブイベントなどを通して、音楽を中心に、様々なサブカルチャーに関しての紹介や批評を行ってきている。現在の深夜ラジオはTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』の成功以降、マキタスポーツ、久保ミツロウなど、サブカル的なアプローチのパーソナリティが中心となりつつある。そこへ、ニッポン放送も遅ればせながら乗ってきた、という見方が妥当であろう。
ダイノジは1994年に、後にエアギターの世界チャンピオンとして世に知られることとなる大地洋輔と大谷で結成され、02年に『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)で決勝に進出するなど、若手の有望株として期待の新人として活躍。しかし、M-1では8位に終わり、その後は長い低迷期が続く。10年に『めちゃめちゃイケてるッ!』(フジテレビ系)で行われた新メンバー発掘オーディションで最終選考に残り再び陽の目を見るも、大地は『ゴッドタン』(テレビ東京系)などを中心にいじられキャラとしてブレイクしたが、大谷は地上波のバラエティなどでブレイクに至らず、CS、BSを中心に音楽や映画などの語り部的な活動を続けていた。そんな彼に奇跡的に巡ってきたチャンス。しかし、このチャンスの背景には、「大谷の実力が認められた」というだけではない、今のラジオ業界が抱えるある問題が存在している。
「今、ラジオ業界全体の収益はさらに落ち込んでいます。元々数年前から続く状況なので、低予算で番組を作れる体制にはなっていますが、CMもほとんどつかないですし、ラジオそのもので儲ける見通しは今のところついていません。そんな状況でもラジオを支えてくれていたのがレコード会社です。音楽業界的には『ラジオから火がつく』という幻想はつい最近まで残っていました。しかし、CD売上から配信主導に変わり始めたタイミングと同時に、宣伝費が圧縮されてラジオからレコード会社が手を引き始めたんです。ラジオにはそこまでの費用対効果が無いという判断なのでしょう」(音楽関係者)
その証拠に、今回の改編でオールナイトニッポンを打ち切りとなったのは、女子中高生から絶対的な人気を誇るシンガーソングライターのmiwaと、若手の注目バンドSPYAIR。さらにEXILEのNESMITHである。いまSONYとavexそれぞれが一番力を入れているアーティストを打ち切るという流れは、完全にレコード会社のラジオ離れの象徴とも言えよう。
「芸人なら番組の独自コンテンツとかにも協力を依頼しやすいですし、スケジュールも押さえやすい。今回の大谷さんの場合、裏番組のTBSラジオが南海キャンディーズの山里亮太さんと同じ吉本という掟破りなブッキングなんですが、大谷さんも山里さんも吉本の中ではあまり好かれてないですから(笑)。まあ、お手並み拝見って感じでしょうね」(ラジオ関係者)
大谷も山里どちらも知識が豊富で頭のキレる優秀な芸人として知られている。「不毛な」闘いにならないことだけを願わずにはいられない。
(文=青木忠)