バンドじゃないもん!「バンドじゃないもん!」
ライムベリー「HEY!BROTHER」
KGY40Jr.「コスプレイヤー」
「アイドル戦国時代」に悪態をつき続けてきた本連載も4年目を終えようとしている。アイドルブームが意外と長く続くので、もはや悪態をつくのも疲れた。それが偽らざる心情である。
活動しているアイドルは増え、音楽雑誌でもアイドルの記事を目にすることが増えた。もはや飽和状態である。その一方で、マーケット的にはAKB48とジャニーズという二大帝国が依然として覇権を握り続けており、ももいろクローバーZがやっと「NHK紅白歌合戦」への出演を決めた、という程度だ。大きな変化がマスレベルで起きたとは言い難い。なんなのであろう、この乖離は?
「宗像さんは今のアイドルブームがいつまで続くと思いますか?」。今年たびたび聞かれた質問であるし、昨夜もある忘年会で聞かれた。そのときまっさきに思い浮かべたのは、AKB48の東京ドーム公演3DAYSの最終日、8月26日に見た光景である。前田敦子の卒業セレモニー、そして去っていく前田敦子と残って歌い続ける他のメンバーたち。アイドルシーンは、人々の共通言語になることに成功したAKB48によって支えられている。そこから前田敦子が卒業した後、AKB48がどうなるかがアイドルシーン全体の命運すら決定づけるのではないか、とライヴを見て感じた。しかし実際にはAKB48は大きく人気を落とすこともなく存在し続けている。その事実を思い返したとき、昨夜の忘年会で私はこう述べた。「もしかするとしばらく続くのかもしれないですね」。
もはや自分がいったい何と戦ってきたのかもわからない「アイドル戦国時代」への敗北感。そんなものを抱えつつ、恒例の年間ベストテンを挙げていきたい。
■1位:BiS「IDOL is DEAD」
「全裸になっても内部抗争に押し流される!? エモさを武器にしたBiS『IDOL is DEAD』!」(https://www.menscyzo.com/2012/11/post_4893.html)で紹介した。
辛い思い出しかない。
それは本作に収録された、当初HMV限定シングルだった「IDOL」という楽曲のことだ。「ディレクターが変わる、BiSも正統派のアイドル路線になる」とヲタをだまして怒らせて煽った挙句に、直前にPVが公開されて実際には地獄のようなメタル・ナンバーだとわかったのが「IDOL」だった。我々はさんざん感情を弄ばれたようなものだった。
発売当日である4月11日の新宿ロフトでのライヴでは、それまでBiSのメンバーを批判しまくってきたヲタたちが一斉に「ごめんなさーい!」と叫ぶ異常な光景となり、その中で私は最前列センターで「レスがないなら殺してくれ!」と楽曲に関係なく叫び続けていたことを思い出す。酸欠になったのか、終演後には激しい頭痛に襲われた。
その後エイベックスからメジャー・デビューしてリリースされたセカンド・アルバム「IDOL is DEAD」は、あまりにもロックへと振り切れているので強い戸惑いを覚えたものだ。インディーズ時代の代表曲がアレンジ違いで再録されたこともそれに拍車をかけた。ただ、それはあくまで2011年のファースト・アルバム「Brand-new idol Society」との比較論にすぎない。松隈ケンタ率いるSCRAMBLESの作品のクオリティが落ちることはなかった。
BiSは2012年も楽曲を量産したのだが、そのなかでもアナログ盤「ABiSCDiS」にDiS名義で収録されたラップ・ナンバー「be minded」は、本年のアイドルシーン屈指の傑作である。DiSは今年もナタリーを全面批判した「DEAR NATALIE」を突然ネット配信(https://soundcloud.com/disidol/dear-natalie)するなど破天荒な活動を見せたが、アナログ盤に新曲として収録された「be minded」では、生のブラスをふんだんに使ったSchtein & Longerの手腕が光っている。本年の1位を「IDOL」、「be minded」、「IDOL is DEAD」のどれにするか最後まで迷った。
前述のように私たちヲタの心を弄んだBiSだったが、「IDOL is DEAD」発売前のメンバー抗争ネタでの仕掛けは成功したとは言い難い。もっと私たちの心を愚弄しろ。もっと土足で踏みにじれ。もっと気を狂わせろ。そうしてくれることを願っている。そうしてほしいのだ。
最後に付け加えるならば、2011年に「Brand-new idol Society」を無視した、あるいは気付きもしなかったアイドルジャーナリズムは信頼に値しない。
■2位:バンドじゃないもん!「バンドじゃないもん!」
「女の子ふたりがドラムを叩き狂ってアイドル!? 『バンドじゃないもん!』」(https://www.menscyzo.com/2012/10/post_4833.html)で紹介した。
バンドじゃないもん!の現場は常に自己の内面との戦いである。それは、南波志帆やバニラビーンズといったMIXを打たない現場はもちろん、「SRサイタマノラッパー」のイベントのようなヒップホップのイベントにも彼女たちが出演するからだ。しかもヲタがあまり集まれない日もあり、「知っているヲタが誰もいない」という状況もある。失笑を買う覚悟で、約300人が詰まった会場でひとりでMIXを発動したこともあった。ずいぶんと精神的に鍛えられる現場を経験させてもらった気がする。
そうしたプレッシャーの強いライヴほど、ミナミトモヤが作曲した「バンドじゃないもん!」の楽曲群の中でも「歌うMUSIC」は解放的に、「Back in you」は甘く響いた。
■3位:KGY40Jr.「コスプレイヤー」
「アイドルシーンへ奇襲した鎌ケ谷からの伏兵! KGY40Jr.『コスプレイヤー』」(https://www.menscyzo.com/2012/03/post_3752.html)で紹介した。
2011年の年間ベストでもCDのリリースを熱望した鎌ケ谷の秘宝が、ついに届けたミニ・アルバム。「コスプレイヤー」が音源化されたときの衝撃はやはり忘れられない。プロデューサーである皮茶パパこと福田優一の話を聞くと、一読すると不思議な歌詞も実は理詰めで書かれているのだが、「いきなりさっそく即」や「ラリルンルンルンレロンロン」といった中毒性の強いフレーズは理屈を超越した「何か」を感じさせてやまない。
■4位:ライムベリー「HEY!BROTHER」
「中学生のアイドルラップユニットがダメな大人を叩き起こす!『HEY!BROTHER』ライムベリー」(https://www.menscyzo.com/2012/07/post_4395.html)で紹介した。
これも2011年の年間ベストでCDのリリースを熱望したグループによるファースト・シングル。2012年のリリースはこれ1枚のみだったが、9月17日のlyrical schoolとのツーマンライヴ「アイドルラップナイト」では、会場の新宿MARZの2階にヲタの熱気が舞い上がってくるほどの異常な盛り上がりを見せつけた。
「HEY!BROTHER」に収録された「Ich liebe dich(HIKARU MIX)」が素晴らしいのは記事にも書いたことだが、CDではHIKARUのソロだったこの楽曲が、「アイドルラップナイト」ではメンバー全員による形式に変化していたのも新鮮だった。
さらに、ライヴではECDの「MASS対CORE」をオマージュした新曲「まず太鼓」を披露して、ECD本人もTwitteで反応する事態に。今後はタワーレコードによるアイドル専門レーベル・T-Palette Recordsに移籍することが発表されており、嶺脇育夫社長のもとでどう「化ける」かが楽しみだ。
■5位:いずこねこ「最後の猫工場」
タワーレコード限定流通盤だったために本連載では紹介できなかったファースト・アルバム。いずこねこは大阪のアイドルで、 茉里によるソロ・ユニット。サクライケンタが作詞作曲編曲、プロデュースを手掛ける楽曲はエレクトロニカ色が強い異色の路線で、ライヴではいずこねこの生歌とダンスの身体性が圧倒的な魅力を感じさせる。乾いたサウンドとじっくりと歌い上げるいずこねこのヴォーカルの不思議な融合は、事実上の表題曲「last cat factory」で感傷と叙情を炸裂させている。Marginal Rec.のメンバーがリミキサーとして多数参加しているほか、KGY40Jr.を手掛ける皮茶パパとPsycheSayBoom!!!も参加しており、「rainy irony (皮茶パパ&PsycheSayBoom!!! remix)」はいずこねこを異界へと誘いだしている感すらある。
また、11月10日のファーストワンマンライヴでは、その構成や演出、盛り上がりに加えて、この日のために大阪から上京したいずこねこのおばあちゃんによる横断幕も感動的だった。