巨大ネット掲示板「2ちゃんねる」の元管理人で会社役員の西村博之氏(36)が、麻薬特例法違反(あおり、唆し)のほう助の疑いで20日に書類送検された。送検容疑は、2ちゃんねるに違法な薬物売買の投稿が多数掲載されているのを知りながら削除せずに放置し、昨年5月に薬物売買の書き込みをした男(55=同法違反で実刑確定)の売買をほう助した疑い。掲示板の管理に絡み2ちゃんねる関係者が摘発されるのは初。現在は身柄拘束されておらず、今後、東京地検が起訴するかどうか判断する。
西村氏の書類送検に対して、ネット上では多くの疑問の声が上がっている。2ちゃんねるはシンガポールの企業に譲渡され、サーバーもアメリカの企業が管理しており、西村氏の手を離れている。運営も現在は削除人と呼ばれるボランティアスタッフによって行われている。にもかかわらず、なぜ西村氏が書類送検されることになったのか。
「警察は、西村氏が現在も実質的な管理者だと判断した。実際、西村氏が『まとめサイト』に関するルールを決めるなど、無関係のはずなのに運営に口を出した場面もありました。2ちゃんねるの広告収入が西村氏の手に渡っていたことも、判断材料になっています。しかし、何よりも書類送検の決め手になったのは警察のメンツ。薬物売買書き込み絡みで大々的な家宅捜索をしたこともあり、見せしめとして象徴的な人物を逮捕したいのでしょう」(IT関係者)
西村氏は逮捕されてしまうのだろうか。だが、捜査関係者は「起訴は困難」と口をそろえており、不起訴処分になる見通しだという。
「西村氏が実質的な管理人とされていますが、それを立証するのは非常に困難。少なくとも、登記上は全くの無関係です。削除権限があるのは『削除人』というスタッフたちですが、彼らが西村氏に指示されて書き込みを放置したという決定的な証拠もない。書類送検して警察のメンツを保つことが最大の目的でしょう」(前同)
このような強引な手段で西村氏を書類送検した裏には、どのような警察の意図があるのだろうか。
「昨年8月に池田克彦氏が警視総監を勇退し、副総監だった樋口建史氏が新たに就任した。池田氏が総監時代に暴力団排除を進めて評価されているため、樋口氏は自身の実績づくりに躍起になっている。樋口氏はサイバー犯罪の摘発で活躍した経歴があり、サイバー犯罪の温床といわれた2ちゃんねるを摘発することで評価を得たいのでしょう」(IT系ジャーナリスト)
トップの意向によって警察が「ネット犯罪の撲滅」を新たなテーマにし、その流れの中で温床といわれる2ちゃんねるの象徴的存在である西村氏が狙われたという構図のようだ。だが、仮に2ちゃんねるを摘発したとしても、違法書き込みは他の掲示板やソーシャルサイトなどに流れるだけで根本的解決にはならない。サイト運営者が、書き込み全てに責任を持てというのも無理がある。それよりも、時代に即した法律の整備の方が急務だろう。
警察が躍起なっていた強引な暴力団排除は、評価された一方で暴対法適用外の関東連合などの「半グレ」を台頭させる事態になった。メンツを大事にするあまり、それと同じ過ちを警察は繰り返すのだろうか。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)