明治26年6月のこと、『東京朝日新聞』に岐阜県のある村で小学校の教師をしている21歳の男性のことが取り上げられた。その男性、体格は中肉中背でごく普通の健康体。親族にもこれといった遺伝的な疾病は認められなかった。また、本人も幼少期から大きな病気にかかったこともなく、身体の各部も健康に発育して現在に至っている。
ところが、下半身の局部だけが通常とは違っていた。記事の説明は少しややこしいが、ポイントとしては「各一個の陰茎あり」、すなわちペニスが2個あるというのだ。
記事の説明では、どうやら男性のペニスは二股に分かれているようで、「亀頭茎共によく発育し」というから、それなりに立派なものと推測される。座ったり歩いたりする時も「困難を覚えず」というから、日常生活には何の問題もないらしい。
そして、放尿時には「左右両側より同時に排尿す」とのこと。さらに生殖機能の点でも「両側共に能(よく・筆者ルビ)勃起するを得」というから、男性機能としても問題ないようだ。実際、男性は女性と遊んだこともあり、とある女性と同棲中で、しかもその女性は妊娠中であるという。
ただし、トイレなどでは左右に飛び散ったりする不都合が多いというので、名古屋の病院で手術を受けているとのことだ。治療については記事では途中までしか報じられていないため、男性のペニスが「一本化」したかどうか詳細はわからない。
この手の人目を引くような記事は『朝日新聞』ではしばしば見かけることがあり、たとえば昭和5年の同紙にも、「男性が出産した」という記事が掲載されている。19歳の男子高校生の睾丸にできた腫れ物から3センチ程度の胎児が出てきたというもので、本来なら双生児として生まれてくるはずだった片方が、成長せず高校生の体内に取り込まれてしまっていたという内容だった。
それにしても、先の「二股ペニス」の男性のケースについて、どのようなセックスを行っていたのか、普通とは感覚的に違っていたのかなどについては、パートナーの女性の証言などがまったく見当たらないのが残念なところである。
(文=橋本玉泉)