大津の自殺事件以降、「イジメ問題」が、様々なメディアをにぎわせ、大きな関心を集めている。この問題で大きいのは「いじめ」と「いじり」の境界線が見えないことだったり、イジメをしている側に罪の意識が希薄であるといったことが大きいのだが、これは年齢が高齢化すると、ますますこじれてくるという。
香奈さん(仮名、以下同)は19歳の大学生。志望大学に入りたいとまじめな高校生活を送り、この春第一志望の大学に合格して新潟県から上京してきた。おしゃれとも無縁で、やぼったい雰囲気だったが、もともと佐々木希似の美人でもあった彼女は、すぐに友人もでき、音楽系のサークルにも入り、順調な学生生活をスタートさせていた。
そして、夏休みに、アルバイト先で知り合った、同郷のまじめな男性から告白され、つきあい始めた。すると、後期になって久しぶりの大学にいくと、仲のよかった男友達がそっけなくなり、サークルでも、半数ほどの男子生徒が、明らかに意味ありげに彼女を避け始めた。
不思議がる彼女に、それまで距離を置いていたはずの、サークルのチャラ系の先輩が声をかけてきた「香奈ちゃん、ビッチになったんだって? 今度遊びに行こうよ……」
ようするに、彼氏ができたことが周囲に伝わった途端、清楚でまじめな香奈さんは、いきなり「ビッチ」というあだ名を付けられたのである。
「最初の頃できた友達っていうのは、私と同じ上京組だったり、服装とかにも興味があまりない、おとなしい人が多かったんです。男性も女性も。でも、彼氏ができて、少しだけおしゃれな服を着るようになったら、いきなり『ビッチ』とか『スケベ』とか、陰で言うようになったみたいです。これは女友達から聞いたんですけどね。でも、まだつきあって1カ月経つか経たないかで、身体の関係なんかあるわけないじゃないですか。すごく腹が立ったというか、ふざけんな、童貞野郎! って思いましたね」(香奈さん)
記者にも、どうして処女である彼女に「ビッチ」というあだ名がついたのかわからなかったのだが、香奈さんをそう呼んでいた男性たちは、ようするに素朴で処女である香奈さんが変化していくことに耐えられなかったのだとわかった。
ダサイまま、おいて行かれてしまう焦りを、成長していく相手をビッチ呼ばわりすることでごまかそうというわけだ。それだけなら、童貞集団は勝手にしろと思うだけだが、そのことによって、道を踏み外してしまう、真面目な女の子もいるから困る。
高校を卒業してデリヘル嬢になってしまった樹里さんも、高校2年までは部活(吹奏楽部)に燃える、真面目な女子高生だった。
「高2の夏休みに友達と地元のお祭りにいって、大学生にナンパされたんです。で、ファミレス行って何もなしで送ってもらっただけなのに、ナンパについていったビッチだって話になっちゃって……」(樹里さん)
ナンパされるところを見られただけなのだが、遊び人のレッテルを貼られた彼女は、そこで友人が総入れ替えになる経験をした。
「それまで仲のよかった友達と、なんとなく気まずくなると、それまであまり話さなかった、ギャル系の同級生やチャラ系の男子が話しかけてくるんです。で、その友達と一緒に遊んでいるうちに、夜遊びも覚えたし、いつのまにか処女も捨てていて、なんか学校がどうでもよくなって……ま、卒業だけはしたけど……いい思い出はないですね」
香奈さんも、樹里さんも、いわゆる「イジメ」にあったわけではない。しかし、彼女たち自身は、こういった経験を持つことで、少なからず人生そのものが大きな影響を受け、樹里さんにいたっては進学さえやめて風俗でつとめることになった。これもまたイジメの一種になるのではないかと思う。
「イジメの原因は、年齢を問わず未知の者、部外者に対する拒絶反応です。同じ価値観を共有できない者を排除してしまう。成績がよすぎてもターゲットになるし、悪すぎてもターゲットになる。普通は中学生にでもなれば、それぞれの個性を個性として認め合うようになるものですが、社交性の乏しい現代人はそれができないんです。だから相手に好ましくないレッテルを貼って、集団でつまはじきにしようとする。結局は恐怖心、被害妄想があるから、イジメをしている意識がなく、むしろ正当防衛だと思いたがるんです」(教育問題に詳しいライター)
確かに、2ちゃんねるに行けば、嫌いな芸能人を外国籍であるとか、特定宗教の信者であるとかの、確証のないレッテルを貼り付けている人間は腐るほどいる。合コンがばれただけで、ビッチ扱いされるアイドルもいる。
「信じていたのに裏切られた」とイジメをする側、他人に攻撃を加える側は被害者ぶるが、それを免罪符に他人を攻撃する権利は果たして彼らにあるのだろうか?
(文=潜水亭沈没)