収録曲は前述の4曲なのだが、全曲についてヴォーカル・トラックのアカペラとインストルメンタルが入っており、12トラックも収録されている。このアカペラはメンバーそれぞれの個性が如実に出ていてかなり面白い。私が求めるのは別に歌唱力ではないので、もうアイドルのCDは全部アカペラを入れてほしい。
「PPCC」のビデオ・クリップもこれまでと同じく監督は丹羽貴幸と浅井一仁のコンビ。暴力とスクール水着とフェチズムが交錯する映像だ。「PPCC」のリリース前後のイベントでも、BiSはそのスクール水着を着用していた。7月20日から21日にかけて開催された「24時間耐久フリーライブ&握手+チェキ会」も狂っていたが、その前日の19日に開催された「『PPCC』リリース記念ライブ&ケツバット会、チェキ会、耳掻き会」はさらに異常だった。
この日は、CD100枚セットが各メンバー分用意されて販売されたのだが、その特典はメンバーに膝枕と耳かきをしてもらえるというもの。しかし、一箱13万円の費用対効果の面から考えると、事実上は各メンバーのTO(トップヲタ)の座の争奪戦だった。私がBiSを紹介した友人がユッフィー分の箱を購入してしまったために、責任を取る意味で遅れて会場に到着したところ、会場は狂気に満ち満ちており、リーダーであるプー・ルイ分の箱の争奪戦は、友人3人が一気に挙手し、ジャンケンで購入権を奪い合う展開となった。撮影可能だったので私はその光景をiPhoneで撮影していたのだが、見返してみるとブレている。あまりの緊張感に興奮してしまったのだ。
CD100枚入りの箱を購入した研究員は、マット状の物が敷かれ、横にティッシュが置かれたステージでメンバーから膝枕と耳かきをしてもらえた。照明も落としてムーディーになるのだが、完全に衆人環視である。司会は「ティッシュにたくさん出しちゃってください~!」と、名調子だが完全に風俗のポン引きのノリ。その状況下で勝者は喜びを噛みしめたのだ。愛と金と運のすべてをあわせもつ者だけが――。
また、13万円を出さなくても、1,300円のCDを買えば今回の一連のリリースイベントでは気軽にメンバーからケツバットをしてもらえた。文字通り、尻をバットで殴られるのである。プラスティック製のバットなので、フルスイングでも音が大きいだけでさほど痛くもないのだが、5人続けてされるとちょっとツラい気もする。私は3日連続でケツバットをされたが、これは仲間内では少ない部類である。24時間耐久イベントの頃には、メンバーと会話する話題もなくなったので、頭を下げ尻を上げたままメンバー間を移動していた。研究員もさまざまな体位を開発してケツバットを受けており、思わぬクリエイティヴィティが発揮されていた。
「PPCC」はオリコンの週間シングルランキングで31位となり、目標の15位前後にこそ届かなかったが、それでもデイリーではなんと8位を記録した。2011年2月に初めて見た破滅的なライヴを思い出すと、その数字が途方もなく重いものに感じられる。あのステージにいたりなはむとユケは脱退し、プー・ルイとのぞしゃんは残った。
3種類用意された「PPCC」のひとつに付属している、2011年12月20日のライヴを収録したDVDでは、プー・ルイと脱退したユケが副音声で会話している。会場の最前にいる研究員の中にも、残った者と去った者がいる。そしてまたユケも、一度は辞めたはずの芸能活動を再び目指しているのだ。こんな世界はもうやめておけ、そう彼女に早く誰か伝えてくれ。アイドルについての原稿を書きながら、そんな矛盾した想いを抱えてしまうのも事実だ。「PPCC」はBiSの過去と現在を恐ろしくうまくパッケージングしている。
路上に並べられたトマトはこれからも潰されていくだろう。アイドルとは、メンバーの生身を消費していくと同時に、ヲタの感情の動きをも貨幣に変えていくシステムだ。BiSはそれを極めて優れた形でエンターテインメントにしており、だからこそ「エモい」と言われる。しかし、自分たちも巻き込まれる以上、もはやそんな言葉で表現できるほど甘い次元ではないのだ。自分の情動が一線を超えて破綻する瞬間まで、私はBiSを追っていこう。気が付くともはや退路は断たれ、BiSと迎える2度目の狂った夏が始まっていたのだ。
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