王者参戦も盛り上がらない『THE MANZAI』の断末魔

※イメージ画像:THE MANZAI 2012 公式サイトより

 最も面白い漫才師を決める『THE MANZAI 2012』に、若手漫才師日本一決定戦『M-1グランプリ』で王者に輝いた3組が参戦する。すでに予選大会が行われている中で、今回、参加を表明したのは、中川家、NON STYLE、笑い飯の3組。ニューカマーの存在に目を向けられがちなコンテストにあって、実力、知名度共に抜群の彼らが加わり、大会のレベルアップは必至。12月の決勝大会に向けて、熱き戦いが本格化してきた。

 とはいえ、一方では、そもそも十分実力のある芸人が出場するなら「純粋なネタ番組にすればいい」という声もチラホラ聞こえる。1980年代に放送されていた本家『THE MANZAI』(フジテレビ系)のように、選抜した芸人に十分な時間を与えてネタを披露してもらえば面白いのは間違いない。これだけ実力のある芸人が揃っている今のテレビバラエティ界で、なぜわざわざコンテスト形式にこだわるのかは疑問が残る。

「M-1には芸歴10年以内という明確な参加制限があり、まさに新人発掘の場だったわけです。しかしTHE MANZAIの場合には、その制限がありませんから、中堅芸人たちが腕試しという感覚で出場するのかもしれません。もちろん、勝敗のはっきりする大会ですから、プライドをかけた戦いとなり、面白いには違いありませんけど、まだテレビにも出たことのないような若手にしてみれば、いい迷惑ですよね。彼らのせいで間違いなく椅子は減るわけですから」(業界関係者)

 確かに、まだバイト暮らしをしているような若手芸人にとって、コンテスト形式の大会は一足飛びに知名度を上げるチャンス。しかも、それが全国ネットで放送されるほど大きな大会ともなれば別格だ。いわば、THE MANZAIは文芸界の芥川賞のようなもの。しかし、そんな意義を持つ大会に元王者が参加するとなれば、その新人発掘の大義は当然薄れてしまう。中途半端な大会となれば、いくらレベルアップするとはいえ、王者たちの参戦が興ざめを招き命取りになりかねない。

 だが、そんな王者たちも、今のテレビバラエティで縦横無尽の活躍をしているかといえば、そんなこともなかったりする。確かに、M-1を機にブレイクした芸人は多いが、その中にあって、今回参加を表明した中川家、NON STYLE、笑い飯の3組は、さほど露出が増えることもなく、活躍の場は関西が中心のまま。同世代から若干上の中堅芸人たちがテレビの中心を席巻しているにもかかわらず、その輪にはなかなか加われていないのが現状だ。いくら王者といえども、運やタイミングによっては、テレビで売れっ子になるのは難しいのが今のテレビバラエティ界なのだ。そんな彼らにしてみれば、今回のTHE MANZAI参戦は、もう一度ブレイクのきっかけを掴むための挑戦ともいえる。

 一時のお笑いブームから落ち着いて、今のテレビバラエティは円熟期を迎えている。その象徴が中堅芸人たちの隆盛といえるだろう。そんな状況にあって、コンテスト形式の大会には、開催すること自体への疑問符がつきまとう。だが、いったん収穫期を迎えれば、次は種付けをしなければならないのもまた世の流れというもの。今年のTHE MANZAIでは、王者たちを倒す若手スターが台頭するかもしれない。いや、そうならなければいけない。とんでもない若手の誕生を願いたい。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/
著書『松本人志は夏目漱石である!』(宝島社新書)

men'sオススメ記事

men's人気記事ランキング

men's特選アーカイブ