2011年3月の東日本大震災では、さまざまなものの「正体」が明らかになっていった。そのひとつが、主要全国紙をはじめとする大新聞や全国ネットの大手テレビ局の報道姿勢である。両者とも、今回の震災という歴史的な大事件の前に、実際には国民よりも体制と広告を優先させる体質を明らかに示した。つまり、多くの被災者が今なおもとの生活に戻ることが出来ず、さらに多くの国民が福島第一原発事故に由来する放射能に不安を抱き続けている。
にもかかわらず、大新聞や大手テレビ局などの主要メディアは、原発関連の報道といえば、政府や経産省、そして事故当事者である東京電力などが発表したものをそのまま小出しに記事にするばかりで、独自の取材姿勢というものがほとんど見られないのが現状だ。したがって、その報道は政府や東電に都合のよい内容になりがちである。
実際、主要メディアの各報道内容を点検してみると、放射能や原発についての危険性から読者や視聴者の目をそらすように仕向けるかのような傾向がうかがえる。たとえば、昨年12月の首相サイドによる福島第一原発事故の「終息宣言」を各メディアは大きく報じたが、それに対する批判や指摘については形ばかりのものを取り上げる程度だった。最近でも、「被災地では除染作業が進んで子供たちに笑顔が戻った」などと報じたが、それはあたかも現地の状況が劇的に好転したかのように印象づけるものであったとの指摘が少なくない。
こうしたマスコミ、主要メディアの「体制べったり」の姿勢に対して、抗議するデモが東京・渋谷で行われた。同じ趣旨のデモは今回で2回目である。
3月20日、午後2時30分に宮下公園を出発したデモ隊は、「マスコミは正しい報道をしていない」「マスコミ報道にはスクープがない。東電や政府からの情報を無批判に垂れ流しているだけ」などと指摘するシュプレヒコールをあげながら、神南にあるNHKのほうへと進んだ。
デモ隊はさらに、放射性セシウムの検出結果についてマスコミ報道が不十分であることや、「絆」という言葉によって放射能問題をろくに報道していないことなどとともに、今年3月11日に行われた政府主催による東日本大震災追悼式典における天皇陛下いわゆる「お言葉」について、その一部を主要各メディアが一部カットして報じた問題も取り上げた。
これは、「お言葉」のなかから「再びそこに安全に住むためには放射能の問題を克服しなければならないという、困難な問題が起こっています」という箇所が削除されたという問題である。通常であればノーカットで報道されるはずの天皇陛下によるスピーチがかなり意図的に削除されたことに対して、デモ参加者からも「そこまでして放射能から国民の関心をそらせたいのか」「これこそ『不敬罪』に値するのではないか」という怒りの声が聞かれた。
デモ隊はNHKの脇を通過しながら抗議の声を繰り返した後、にぎわう休日の渋谷の街を進み、メディアが政府ならびに東電の責任を正しく追及することなどを求めるシュプレヒコールを続けた。デモ参加者は38名から40名程度と小規模なものであったが、メディアに対する批判は国内を見ても大きなものは見当たらない現状では、こうした動きは重要であるといえよう。
今回のデモを主催した「権力とマスコミの横暴を正し人権を守る国民の会」の矢野健一郎氏(44)は、「これまでもNHKや読売などを筆頭に、各マスコミはそうした政府や東電の思惑通りの報道をしてきています。政府や東電は、電力不足や経済などを理由に今後も原発再稼動を主張してくるでしょう。おそらく、国民の9割以上はNHKをはじめとするマスコミ各社の報道を信用していると思われますから、これからもマスコミを疑う姿勢はさらに重要になると思います」
矢野氏は、今後も月1回のペースでマスコミの姿勢を問うデモを続けていきたいとしている。
(文=橋本玉泉)
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