あらゆる性癖が盛りだくさん「ギリシャ神話」はセックスネタ満載

 古今東西の古典をみていくと、多くの文献に共通しているのは性に関する記述が非常に多いという点である。わが国の『古事記』や『万葉集』はいうに及ばず、『日本霊異記』『今昔物語』などには、性的な描写が随所に現れる。おとぎ話として知られる「浦島太郎」も、もとは中国の『遊仙窟』や『桃花源記』などの影響を受けて創作された「浦島子」が登場する一連の説話またはエピソードと言われている。その内容は、浦島子なる男が異界に迷い込み、そこで出会った美女と昼も夜も男女の楽しみに明け暮れるというものである。これが後に、竜宮城やら玉手箱やらが付け加えられたらしい。元の話がわかれば、なぜ最後のシーンで浦島太郎が「白髪のおじいさん」のような外見になったのかが理解できる。数百年という時間が経過していたら、太郎は間違いなく白骨化してしまうはずだ。実は時間が経過していたのではなく、単に美女、つまり乙姫様との情事が過ぎて精力を使い果たした姿だったというわけである。

 一方、西洋の古典も性的なネタには事欠かない。インドやアラブ、古代エジプトなどの文献も十分に楽しめる物が多いが、最も手頃なものがギリシャ・ローマ神話である。とにかく、近親相姦や同性愛を始め、獣姦あり自己陶酔愛あり略奪愛ありと、さまざまなパターンやシチュエーションが続出する。「ナルシスト」のようにギリシャ神話由来の言葉もみられる。

 そして、神々の王であるとともに神と人間すべての支配者である全能の神ゼウスは、セックスの点でもギリシャ神話随一である。まず、実の姉であるヘラを妻にしたが、精力絶倫のゼウスが一人のセックスパートナーで足りるはずがない。神々だろうが少女だろうが人妻だろうが少年だろうが、目をつけたターゲットは逃さない。熟女から幼女まで、ストライクゾーンは恐ろしく広い。あるいは口説き落とし、あるいは拉致してでもモノにしてしまう。牡牛に変身してフェニキアの王女エウロペを誘拐してクレタ島にある洞窟に連れ込み、スパルタの王女レダには白鳥に変身して近づき、そして男女の関係を持った。そうして生ませた子供は数知れず。なかには少女レトのように、ヘラの嫉妬によって呪いをかけられてしまった女性や子供たちも少なくなかった。もちろん、女性たちには何の落ち度もなく、ほとんどはゼウスの欲情の目に留まったというだけであり、何とも理不尽なこととしか感じられない。だが、このレトが生んだ2柱の神々こそ、月の女神アルテミスと太陽神アポロンだった。

 性欲が盛んなのは、ゼウスだけではない。ミノス王の王妃であるパシパエは、何と夫が所有する牧場の牡牛のなかの一頭に欲情し、「あの牛としたい」と強く願望するようになった。そこで、王家出入りの天才職人であるダイダロスに牝牛をかたどった木製のケースを作らせた。そしてパシパエは全裸になってその中に入り、目当ての牡牛に近づいて「目的を達成」したのであった。その結果、パシパエが出産したのが、半人半獣の怪物ミノタウロスであった。

 ほかにも、ギリシャ神話にまつわる逸話はキリがない。たとえば、W・ゲルラッハの『迷信なんでも百科』(文春文庫)には、「オナニーを考え出したのはパン神」とある。パンとは山羊の体を持つ老神で、やはり好色で知られている。ただ、この起源やその理由については筆者はまだよくわからない。

 ほかにも、彫刻師ピグマリオンの逸話など、屈折した話も数多い。セックスを抜きに太古は読み解けないと思わせるほどだ。
(文=橋本玉泉)

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