エイベックス・エンタテインメント
長く「視聴率王」として君臨した島田紳助の突然の引退、「落語界の異端児」立川談志の死去など、2011年の芸能界は強烈な個性を放つ二人を失った。さらに、後を継ぐべき松本人志は9年ぶりのコント番組「松本人志のコント MHK」(NHK)が視聴率2%あまりとふるわない。先日も「夜遊び報道」をめぐって写真週刊誌相手に敗訴するなど、その「威光」はすでに薄れてきている。
そんな崩壊寸前の芸人の世界を救うのが、爆笑問題の太田光だ。
19日発売の「週刊大衆」(双葉社)が「ビートたけしに一番近い男 爆笑問題・太田光『新帝王襲名』」と報じている。記事によれば、テレビ界の「新帝王」の名を事実上”襲名”したといわれる太田は、現在テレビ4本、ラジオ2本のレギュラーを持ち、決して爆発的な視聴率を稼げるわけではないが、人気のわりにはギャラが安いという。”テレビ不況”の時代、これからもっと重宝されるだろうという内容だ。
しかし、太田の一番の武器は「独特の視点」と「言葉選びのセンス」を抜群の「頭の回転の早さ」で料理していく技術。それはすでに唯一無二の境地に達している。生前の談志はその才能に惚れ込んでいた。デビュー当時から注目していた談志は「太田は俺の隠し子」「俺の未練を太田に置いていきたい」などと話すほどかわいがっていた。そして、記事によればビートたけしも太田の芸を認めているという。かつて対談中に自分の芸風について語ったあと、「それは、太田も同じじゃないの?」と投げかけたというのだ。確かに、怖いものなしであたりかまわず”毒ガス”を撒き散らす今の太田とたけしの芸風はそっくりだ。
「そもそも太田はツービートの漫才に憧れてこの世界に入りました。たけしはやがて映画の道へ進みましたが、実は太田の夢も映画監督。将来映画をやるために、まずは漫才で世に出ることを選んだんです。”毒舌漫才”でならしたあとは映画界へ。太田は、奇しくもたけしと同じ道をたどっています」(芸能ライター)
記事では「同じ毒舌でも太田の場合は品格に欠けるという指摘もある」とくぎを刺している。確かに、生放送もお構いなしの爆弾発言は常に賛否が飛び交う。一番批判の声があがったのが、キャスター小倉智昭の”カツラ疑惑”をネタにした発言だ。生放送で、相方の田中が「小倉さん、どんどん増えてるでしょう? いま、番組」と言ったあとに間髪を入れず「え、髪の毛が?」とやったのだ。小倉は平然と「髪の毛は便利なほうがいい」と受け流したが、田中に「こいつ殺しますから」とド突かれながらも「着脱式とか……」とさらにヒートアップ。ほんの数秒のやりとりはもはや”伝説”になっている。ちなみに、その横で大笑いしながら「ちゃんと(カツラに)かまやつって書いてあるんだから」とさり気なくフォローしていたのがたけしだ。
無類の読書好きとしても知られる太田は昨年、短編小説集「マボロシの鳥」(新潮社)で作家デビュー。しかし、そこでも大御所に気を遣った態度などとるはずもなく、文壇にすり寄る気配はない。”大先輩”である村上春樹の作品に対しては「思わせぶりなだけで、人間を描けていない」などと公然と批判しているのだ。
それが太田の愛される部分であり、嫌われる部分でもある。しかし、その「毒」がなくなったら太田は太田ではない。やけにスタイリッシュな芸人が多い中、どこか不器用でときに”暴走”する太田には古き良き芸人の匂いが残っている。そして、それは見ている我々にも一種のカタルシスを与えてくれる。だからこそ、談志に絶賛され、たけしに認められるのだろう。
3.11以降の自粛ムードもあり、2011年のバラエティー業界は本来の盛り上がりを取り戻せなかった感がある。停滞感を引きずる世の中に風穴を開けるのは、「神をもおそれぬ突破力」を持ったこの男しかいない。昨年終了した「太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中。」(日テレ系)では政治家相手にも舌鋒鋭く暴れていた太田。番組こそ終了してしまったが、来年はテレビ界の「太田総理」誕生の始まりだ。
(文=小嶋トモユキ)
談志さんにも近い人でした