女子高生のクチコミや、インターネットの掲示板などから、一般人が流行を生み出すこともあるが、ファッションにおいても文化においても、流行となるものの発信源となるのは概ね芸能人であるといっていいだろう。例えば、結婚について。交際中の女性が思いがけず妊娠したことによって結婚することを、ひと昔前までは「できちゃった婚」といっていたものだ。しかし最近では、「授かり婚」という言い方のほうが広まってきている。おそらく、ウエディング業界も、「できちゃった婚」よりは「授かり婚」のほうが何かと都合が良いのだろう。なお、ウエディング業界においては「おめでた婚」「マタニティウエディング」「ダブルハッピー」などということもあるようだ。
さて、芸能人の結婚というとつい授かり婚のケースばかりが注目されがちであるが、もうひとつ目を引くのが「あてつけ婚」である。男女共に、配偶者や恋人との破局後すぐに、全く別の人と結婚するというパターンだ。もちろん、「プロ野球の○○選手にフラれたので、あてつけで一般人と入籍しました」などとカミングアウトする芸能人はいない。また、本人は、あてつけ婚のつもりはないかもしれない。だが、我々一般人から見ると、どう考えてもあてつけ婚にしか見えないという芸能人は、例を挙げるまでもなく多々存在する。
ところで、芸能人だけでなく、実は一般人の間でも「あてつけ婚」の経験者がいる。「告白したところ、入籍間近のカノジョがいるからと断られ、ヤケになってお見合いした」「ブサイクな彼氏に捨てられた後、すぐにイケメン男性とスピード結婚。もちろん披露宴の招待状も送りつけてやった!」など、女性からの声が圧倒的に多かった。「あてつけ」という動機での結婚が果たしてうまくいっているのかと思いきや、意外にも円満とのこと。確かに、芸能人カップルでも、傍からはあてつけ婚に見えても、幸せな家庭を築いているケースは少なくない。とはいえ、配偶者にあてつけ婚であることは、さすがにカミングアウトはしていないようだ。口は災いの元といったところか。
ということは、自分の配偶者が「あてつけ女」である可能性も高い。と、考えると、いささかテンションが下がるので、この部分にはあえて触れないでおこう。そもそも結婚とは、紙キレ1枚とはいえ、その紙の重さはかなりのものである。いくら離婚が珍しくはないご時勢とはいえ、自分の一生にかかわる事柄を、あてつけやヤケクソで決めてしまう人はごく少数派であろう。
では、人生にかかわらないレベルだったら、あてつけやヤケクソもアリなのだろうか? つまり、結婚ともなると話が大きすぎるので、そう簡単には踏み切れないが、「あてつけ交際」程度だったら経験があるという人が多いのかもしれない。「同じ職場の男性社員に告白したが玉砕。悔しいので、彼と同じ部署の、別の男性社員にアプローチし、付き合うことになった」「妻子ある上司と不倫中。彼への想いは本気だが、あてつけで独身男性とも交際を始めた」など、これまた経験談を語ってくれたのは女性ばかり。気になるのは、あてつけ交際のその後である。「さすがにうまくいかず別れを考えている」「相手に対する罪悪感に悩む」など、それぞれ思うところはあるようだ。
一方で、男性は、あてつけやヤケクソで事を起こすことはないのか……というと、あてつけ婚やあてつけ交際はないとしても、「あてつけセックス」はあるようだ。「カノジョに浮気され、あてつけでカノジョの女友達と寝た」「カノジョとセックスレスで、ヤケクソで高級ソープに行ってしまった」などの経験を持つ男性もいた。後者のほうは、後腐れもなく、実にスマートなあてつけセックスといえるだろう。
今回、様々な「あてつけ」の形態をご紹介させて頂いたが、一般的には「相手に失礼である」と考える人が圧倒的多数だろう。しかし、「ひょうたんから駒」「嘘から出たまこと」ということわざもあるように、意外にうまくいくケースもある。いずれにせよ、あてつけられた側は、なんとも思っていないことが多いようで、そう考えると「あてつけ」とは、究極のマスターベーションなのかもしれない。
(文=菊池 美佳子)