「学校で面白かったアイツ」が芸人として売れる可能性

 芸人として成功するにはなにが必要か。笑いのセンスか、それとも運やタイミングか。事務所の力か、絶え間ない努力か。もちろんそれら全てだとする意見が大半だろう。どんな才能も上手く転化すれば笑いに変わる。誰もが可能性を秘めているのがお笑い芸人という職業だ。だがその門戸の広さは当然激しい競争を生む。ではいったいどれほどの倍率なのか。芸人として売れる可能性を計算してみた。

 まず、笑いの才能というものが非常に多岐に渡る点を踏まえ、日本に住む18歳の男子全員が芸人を目指した場合を考えてみる。日本の18歳男子の数は約62万人(2009年国勢調査)といわれている。全国に展開する吉本のタレント養成所や芸能事務所主催の養成所に入学する人数は毎年約5,000人超で、その全ての入学者が18歳男子だと仮定する。単純計算で、5,000÷62万≒0.008、18歳男子がタレント養成所に入る確率は0.8%となる。

 もちろん養成所に入ったからといってプロとして活躍できるわけではない。その5,000人(0.8%)のうち、無事に養成所卒業後に事務所とタレント契約できるのは約1割程度というのが多くの養成所における毎年の実績なので、62万人いる18歳男子のうちプロの芸人になれるのは500人が相場。つまり18歳男子の約0.08%がプロの芸人になるわけだ。

 その500人のうち、ある程度メジャーになれる可能性はさらに低くなる。たとえば、THE MANZAIやキングオブコントのような大々的な賞レースの上位に入ることがその条件とするならば、それぞれの上位10組約40名が晴れてメジャーの舞台に立てるという具合。62万人中の40人なのだから、1万5500人に1人で、その可能性は0.006%ということだ。

 だがたとえメジャーの舞台に立ったとしても、その後待ち受けるのはすでに第一線で活躍している芸人たちとの競合。毎日のようにテレビで活躍することがいかに大変かは想像に難くないだろう。以上の計算は18歳の男子全員が芸人を目指した場合である。いくら芸人という職業が一般に認知されているからといって、あまりにもデタラメといえるかもしれない。そこで、次に記したいのは「学校で一番面白かったアイツ」が芸人として売れる可能性だ。

 全国には約5,500校の高校があるといわれている。つまり、各学校でおよそ1人の生徒が、芸人の養成所に通うということがいえるだろう。上記の計算を応用すると、その中から約10校に1人がプロとして活動することができ、その後メジャー舞台で活躍するのは約140校に1人。確率でいえば約0.7%ということなる。さらに、その後の競争が激しいのは前述の通り。

「学校で一番面白かったアイツ」でさえ、メディアの第一線で活躍するほどになるには1%以下というのが現状の芸人世界。今テレビに出ている芸人が、どれほどの激しい競争を勝ち抜いてきたかがわかると思う。だが、「学校で一番面白かった」からといって、売れるわけではないのが芸人の世界でもある。暗い青春時代を過ごしながらも、茶の間の人気を得た芸人は数多いし、ほとんどの視聴者が理解不能ながら、なぜか一世を風靡する一発屋という存在もいる。冒頭でも記したが、「学校で一番面白いアイツ」であろうがなかろうが、誰もが可能性を持っているのが芸人という職業だ。売れる可能性として記した0.7%や0.006%という数字も、独特な個性や環境、また日々の努力によって、その分母を大きく減らすことができる。そしてその可能性が無限大だ。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/
著書『松本人志は夏目漱石である!』(宝島社新書)

『芸人交換日記 ~イエローハーツの物語~』

 
売れない芸人の言えない本音


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