日本を代表する大新聞、『朝日』『毎日』『読売』も、昭和初期までは読者獲得のためにあれこれ人目を引くような記事や広告を数多く掲載していた。そのひとつが、昭和9年に『東京朝日新聞』(朝日新聞の前身)に掲載されていた「毛生え薬」の広告である。
まずは5月11日付の紙面に載った広告だが、これが何とも怪しい。単に「毛はへ薬」というキャッチのみで、商品名も何もない。読めば、どうやら助産婦の武村しよ子さんという女性が自らの発毛のノウハウを宣伝している広告のようだ。そして、文面ならびに文金高島田の女性の写真が添えられていることから、どうやら「結婚前に、毛についての悩みを解消しておきましょう」という勧めであるらしい。
さて、ではどんな「毛」についての悩みなのかとよく広告の文章を読んでみると、「アルベキ処(ところ)に毛が薄き人」「無毛に悩める人々」などとある。頭髪ならば、わざわざこんなまわりくどい言い方はしないだろう。やはり、これはアンダーヘアつまり陰毛のことを指していると考えるのが妥当なようである。
それにしてもこの広告、デザインといい文章といい、何とも怪しい。1970年代の実話誌に多く載っていたアダルト広告にそっくりである。
ところが、無毛症の治療薬の広告はこれだけではない。同じ『東京朝日新聞』には、ほかにも東京薬院なるところから発売の「フミナイン」や、玉置文治郎本店の「ピローゲン」など、いくつかの毛生え薬の広告が載っている。そしていずれも「男女あるべき処に毛なき人」向けとあるから、やはりアンダーヘア用と思われる。
ちなみに、いわゆる無毛症というのは男性にはほとんど見られず、女性に多い症状だという。ならば、こうした広告は世の淑女向けに掲載されたものであろうか。はたして、どれほどの広告効果があったのかは定かではないが、ともかく、明治期から戦前まで、各大手新聞にはセックス関連の記事や広告が満載状態であった。
(文=橋本玉泉)
マイケル・ジョーダンは禿げ始めてスキンヘッドにしたそうな