AKB48、ももいろクローバーZ、スマイレージ、ぱすぽ☆などが群雄割拠し、アイドル戦国時代と言われている昨今。最近、意外な形でスポットを浴びたのが、13人組女性アイドルグループ「制服向上委員会(略称SKi)」だ。
今年で結成19周年を迎えるSKiは、モーニング娘。やAKB48のようにメンバーを入れ替えながらグループを継続していくスタイルを最初に確立したことで知られ、モー娘。に大きな影響を与えたこともアイドルファンの間では有名な話。
現在のアイドルブームの礎を築いた存在であるSKiは、アイドルらしからぬ社会派の活動を展開していることが特徴。音楽業界の現状に疑問を投げ掛ける「音楽は経済のドレイじゃない」、地デジ移行に反対する「TVにさようなら」、自殺者の増加に歯止めが利かない現代社会を痛烈に批判した「STOP!STOP!STOP!」などの楽曲を発表すると共に、反戦集会やメーデーにも参加してきた。
今夏、彼女たちは脱原発ソング「ダッ!ダッ!脱・原発の歌」を歌って話題を呼ぶと同時に、「フジロック騒動」で大きな注目を集めた。この騒動は、野外音楽イベント「フジロックフェスティバル」への出演が決定しながら、脱原発ソングを問題視したスポンサー企業からの圧力によって降板させられたとSKi側が主張したものだ。
騒動の発端は、メンバーのお姉さん的存在である橋本美香がTwitterで「『ステージ上で脱原発の歌は歌えない』とのことで出演できなくなってしまいました」と発言したことだった。元々、SKiのメンバーだった橋本はグループ卒業後に、SKiの歴史や精神性を後輩に伝える「会長」として、ソロ活動をすると同時にSKiとも活動を共にしている。彼女のTwitterでの主張に対し、ネットでは「売名行為だ」「話題作りのための狂言ではないか」「そもそも出演決定という話がウソなのでは」との批判が大勢を占め、大きな炎上騒ぎに発展。後日、所属事務所代表の高橋廣行氏の名前で 「関係者へのご迷惑とファンの方へ不快感を与えた事について、深くお詫び申し上げます」との謝罪文が公式ブログに掲載され、騒動は一応の終息となったが、出演が決定しながら降板させられたという主張は今も曲げていない。
騒動の真相やツイートの真意を探るため、彼女に直撃インタビューを敢行した。
──フジロック騒動は、最終的に運営会社のスマッシュとSKi側が対応を調整するという形になって終息しましたが、やはり今も真相は言えない状態ですか?
橋本美香(以下、美香) スマッシュさんと調整した結果、高橋が公式サイトに掲載した文章になりました。何があったのか、いつかお話ができたらと思うんですけど、まだまだお話しできない状態で心苦しいです。
──「売名のための狂言ではないか」との批判もありましたが?
美香 あの時はTwitterで「売名お疲れ」とか「ウソつき」とか、全く知らない人達から言われてしまって、ショックが大きかったです。でも、事務所から止められていて弁明もできないし、耐えるしかない状態でした。騒動が大きくなってから、これ以上の迷惑は掛けられないと思い、自分の判断でツイートを削除したんですが、今度は「ウソだったから消したんだろう」という批判がきてしまって……。騒動の発端になったツイートは、悔しい、残念という気持ちから、事務所と調整して共通のコメントとして書き込んだんですが、消したのは事務所から言われたわけではなく自分の判断です。騒動後から、今まで以上に自分の発言の責任ということを考えるようになりました。
──ネット時代になったことで、人の善意も悪意も直接ぶつかってくるようになりましたからね。騒動の当時は、ネットニュースや2ちゃんねるのスレッドがSKi一色といえる状態になりました。
美香 あの騒動の時は、私たちのことを全然知らない記者の方が、知らないままメディアで書いた記事がたくさんあって、一般の方がそれを真実だと思い込んでしまうのが怖かったです。その記事を信じ込んでしまったら、私たちは弁明のしようもないですし。今回の騒動を機に、自分でも何か記事を読む時は一つの情報を全てだと思い込まずに、いろんな角度の情報を集めて判断するように心掛けようと思いました。
──フジロックは脱原発を主張するアーティストやスタッフが多く参加しているイベントですが、今回の騒動では同じ脱原発派であるSKiとフジロックが対立するかのような構図になってしまいました。
美香 こうなることを望んでいたわけではないのですが、結果的に自分の発言が原因で対立と思われるような状態になってしまったのは心苦しかったです。フジロックをけなしたかったわけではないですし、脱原発を掲げているからこそ自分たちも出演させて頂きたいと思ったわけですけど……。よくしてくださったスタッフさんたちには、本当に申し訳ないという気持ちがあります。
──Twitterでは、「アイドルがフジロックに出演できるわけがない」といった批判に対し、美香さんが「たぶん優秀なロックファンならお分かりだと思いますが」という書き方で、ロックとは表面的なスタイルやサウンドではなく「ハート」「精神性」だと主張しました。あのツイートにも多くの批判がありましたが、なぜああいった書き方だったのでしょうか?
美香 あの時は悩んで悩んで本当に参っていたので、私なりの精いっぱいの皮肉として言ってしまいました。本当は、ロックファンに優劣なんかないですよね。でも、「アイドルなのにロックフェスに呼ばれるわけない」「歌の下手なアイドルが出演できるわけない」と言われ、優劣をつけられたことがとても悲しかった。殺到する批判に抵抗する形が分からなくなってしまっていたのかも知れません。自分でも「火に油かな」と分かってはいたんですけど、自分の主張をどこかでしないといけないと思って。
──批判されても自分のスタイルを曲げずに、「売られたケンカは買う」という姿勢になるのは十分に美香さんはロックだと思いますけどね(笑)。
美香 うーん(笑)。あの発言が良かったのか悪かったのかは分かりませんけど……。ただ、今回の騒動や私の発言で、フジロックを好きな音楽ファンの気持ちを傷つけてしまったのかも知れないと思うと、申し訳ないという気持ちにもなりますし、全てにおいてやるせないという思いになります。
──脱原発活動についてですが、これに関してもSKiは脱原発を売名に利用しているのではないかという批判があります。
美香 震災以降に原発問題に意見を言い始めたことに対して「売名だ」という批判があるみたいなんですが、震災や原発事故という自分の生き方が変わるような大きな出来事に出会い、原発の問題点に気付いてからメッセージを発信していくことの何がおかしいんだろうって。気付いても何も言わずに黙ったままでいるよりも、自分で感じたことを発信していくことの方が大切だと思います。
──先日、独自の脱原発論を主張して話題になった14歳のアイドル・藤波心さんに対して「大人に言わされているのではないか」「子供を社会運動に利用するべきではない」という批判がありました。高校生や中学生で構成されたSKiにも、同じような批判があると思いますが?
美香 それについては私は絶対におかしいと思っていて、福島の子どもたちの声を政府に届けるというプロジェクトでも、子どもたちが大人に言わされているという批判があったんです。でも、子供って何にも考えてないわけじゃないですよね。多くを感じて現実も見ていると思います。大人とか子どもとか関係なく、本人が自分の言葉で伝えているのに「大人に言わされて可哀想」と言うのは押し付けがましいとさえ感じてしまいます。
──自分の子どものころを振り返ってみても、幼いなりに色んなことを感じて考えていたように思います。強制されていないのであれば、子どもが自分の意思で発信した意見を無視するというのは大人の傲慢なのかもしれません。
美香 SKiのメンバーに対して「こんな歌詞の曲を歌わされて可哀想」とか「こんなことやりたくてアイドルになったわけじゃないだろうに」とか憶測で語られていることについても、もちろん考え方は自由ですけど、メンバーに脱原発に無関心な子は一人もいません。自分も十代の頃はSKiのメンバーとして、問題を自分なりに理解して表現してきました。今のメンバーたちも自分なりに消化して歌っていますし、子どもだからって何も考えてないと決めつけるのは良くありません。知識というのはもちろん大切なんですけど、子供たちの「良いか悪いかを感じる」という力も尊重すべきだと思うんです。
──放射能問題に関しては、最も被害を受ける可能性があるのは大人よりも、長い将来のある子どもたちでしょうしね。
美香 子どもは原発のことなんか関わらなくていいんだって言う人もいると思いますけど、「じゃあ大人に任せていれば何とかしてくれるの?」って話になると思うんですよ。年齢や立場の区別なく、対話ができる状況になるのがいいんじゃないかなと思います。
──8月10日にSKiプロデュースのイベントとして、福島県飯舘村(原発事故により全村が計画的避難区域に指定)の酪農家・長谷川健一さんを招いてのシンポジウムがありました。長谷川さんのお話を通して、原発事故の現状をどう感じましたか?
美香 飯舘村の状況は新聞記事や講習会などで学んではいたんですが、長谷川さんのお話を聞いていると、想像を絶する悲しみや怒りを感じました。原発事故で住む場所を追われて、生活の全てをめちゃくちゃにされて、家畜も殺さなきゃいけなくなって……。被害に遭われた方の立場になって考えようとすればするほど、「つらいけど、頑張っていこう!」なんて気安く言ってはいけない想いさえします。
──テレビや新聞で被害の大きさを知っていても、当事者の声でしか分からないリアルな被害状況は、言葉を失わせるほどの辛さがあるのでしょうね。
美香 飯舘村でも、事故直後は国が「安全だ」と説明していたんですけど、1カ月ほど経ってから避難指示区域になりました。避難するまでに浴びた放射能はどうなるの? 本当に取り返しのつかないことです。村の高校生の女の子が「将来、好きな人ができても私は子供をつくっちゃいけないのかな」と言ったというのを長谷川さんから聞いて、本当に悲しくて涙が止まりませんでした。
──その気持ちをどのように消化して、メッセージにしたのでしょうか?
美香 自ら命を絶たれた酪農家の方(※長谷川さんの友人)の言葉でもある「原発さえなければ」という曲を作ったのですが、歌を聴いた長谷川さんが「自分たちの思っていることが歌詞に全て書かれている。歌にしてくれて本当にありがとう。亡くなった友人も天国で笑ってくれていると思う」と言ってくださって、胸がいっぱいになりました。とても辛い現実がありますけど、福島の方々の思いを歌で色んな人に届けられたらと思います。
──原発事故については国の対応が後手後手でしたし、避難区域の指定方法についても批判があります。
美香 「ただちに健康に影響はない」と言っても、何十年後かの健康被害は誰も正確なことは分からないですよね。今からでも、もっと広い範囲の多くの住民の方々が原発から離れられるように対応が取られるべきだと思います。
──国の対応にしても政治家にしても、震災によって日本の虚飾がどんどん剥がれていった感があります。現在、定期検査で休止した原発の再稼働が進められていますが、どう感じていますか?
美香 原発をやめるかやめないかは人間が選べますけど、地震や津波といった自然災害はどうにもならないし、日本は地震の多い国です。福島の事故も収束できていないのに、再稼働を進めるのはおかしいと感じます。経済的な損失を論じる方も多いのですが、家族がバラバラになったり、故郷に住めなくなって将来が見えなくなってる人たちが出ているのに、経済の豊かさだけを求めて語るべきじゃないのではないでしょうか。まだ放射線物質は出続けているわけですし、命と経済というのは天秤にかけちゃいけないものだと思うんです。
──震災後は脱原発デモが増加し、今までデモに参加したことがないような人たちも路上で声を上げるようになりました。SKiや美香さんもデモに参加していますが、この状況についてはどう感じていますか?
美香 もう、政治家だけに任せてちゃいけないと思うんです。もっと一人一人が、自分の立場から声を上げていかなきゃいけないのではないでしょうか。私は今まで以上に情報を選んで考えるようになりました。震災や原発事故で私も含めて皆の意識が変わったのであれば、これからもしっかりと声を上げ続けていくべきだと思います。
──しかしながら、アイドルをはじめとした芸能人が政治的な主張をするというのは、あまり日本では認められていない風潮がありますね。
美香 そうですね。でも、芸能人だから政治的な発言をするべきではないというのは、おかしいと思います。海外ではアーティストが政治的な発言をするのは当たり前ですし、SKiは昔からメッセージ性を重視してるグループなので、そこで15歳から育った私には、それが普通だという感覚なんですけどね。
──お話を聞いていると、SKiは非商業的というか、表面的にはアイドルでも骨太な精神性を感じますね。頭脳警察のPANTAさんや外道の加納秀人さんといった往年の”過激派ロックスター”たちとコラボしたり楽曲提供を受けてもいますし、ロックの反骨精神を受け継いでいるアイドルとして面白い存在に思えます。
美香 もちろん、商業的に成功するのは大事なことだと思います(笑)。でも、テレビに出るためとか、売れるための曲を作るとか、そういうこととは無縁の世界で活動してきました。私は伝えたいことを音楽で表現したいのであって、売れるために音楽をやりたいわけではありません。結果的に評価をいただける形になれば、それは嬉しいことです。
──そういう意味でも、フジロック騒動は売名ではない?
美香 もちろんです。もう結成19年ですから、もし売名なんてしたいのなら、もっと早く売名してるよ~!なんてね(笑)。そう思っちゃいました(笑)。
──今後はどのような活動をしていくつもりでしょうか?
美香 原発問題などの社会問題に対してメッセージを発信していければと思います。メンバーは十代ながら考えを深めていっていますし、一人一人が自分の思いを表現できるようになればと。私はメンバーと一緒に歌って踊ってというスタンスからは離れてしまっているのですが、曲を作ったり歌ったりする中で自分の思いを表現したり、Twitterも含めて色んな形で自分の感じたことを発信していけたらと思っています。
(取材・文=佐藤勇馬/写真=貴田茂和)
■制服向上委員会(せいふくこうじょういいんかい)
1992年秋に”清く正しく美しく”をモットーに結成された女性アイドルグループ。過去には初代リーダー・吉成圭子らが在籍し、一時活動休止を経て、現在は17歳の小川杏奈をリーダーに活動中。1997年に「SKi基金」を設立し、全国の児童養護施設や福祉施設などへの支援活動も展開。発売中の最新シングル『ダッ!ダッ!脱・原発の歌』(アイドルジャパンレコード)は、売上1枚につき300円が福島の酪農家に寄付される。
■橋本美香(はしもと・みか)
1980年2月7日生まれ。千葉県出身。シンガー・ソングライター。
1995年に制服向上委員会3期生としてデビュー。5代目リーダー、会長を務めた後、2006年にグループを卒業し、女性デュオ「THE DUET」「Petty Booka」などで活動。一時活動休止していた制服向上委員会が2010年に再始動したことに伴い、会長に復帰してグループをサポートしながら、ソロ活動も展開している。今年3月にセカンドソロアルバム『グレイトフル・デッドを聴きながら』(アイドルジャパンレコード)を発売。
■ライブ情報
9月17日(土)
「”制服向上委員会・生誕19年祭”」
場所:初台TheDOORS http://www.livebar-the-doors.net/
OPEN 16:30 START 17:00
出演:制服向上委員会、橋本美香ほか
制服向上委員会オフィシャルサイト
http://www.idol-japan-records.net/ski/
1枚あたり300円が福島の酪農家さんの元に!