「毛相学」(もうそうがく)というものがある。手相や家相のようなジャンルと同様に、人体の「毛」の外見や性質によって人間の性格や運勢について分析判断を試みる学だ。といっても、対象となる毛は頭髪ではない。アンダーヘアすなわち陰毛である。その毛相学における創始者にして権威、そして唯一の研究家が、平井利市(1898-1979)である。
その平井が創始した毛相学だが、単なる思い付きをなぞっただけのものでも、机上で理屈をこねてこじつけたものでもない。50年以上にわたるフィールドワークを基本にした、実証的な研究の成果なのである。
平井は滋賀県山田村(現・草津市)出身。その平井が陰毛研究を思いついたのは、京都大学2年生の頃。島根県の玉造温泉で陰毛の薄い成人女性を何人も見たことがきっかけだった。
「体毛には民族特有の特色が現れるのではないのか」そう考えた平井は、陰毛についての調査研究を始める。父親の遺産があり経済的に余裕があった平井は、京都市内の遊郭を遊びまわり、女性器と陰毛の形状や外見を観察し、サンプルを収集した。さらに、遊郭の娼妓や花街の芸妓だけでなく、女子学生や一般の女性についても、謝礼を弾み、しつこく口説き、時には土下座して頼み込んで、陰毛を観察し、合意の上に譲り受け、さらに情交に及んだという。
こうした調査研究の成果を、学生時代にすでに「春草研究の統計学的一考察」という論文にまとめ、担当の教授に提出している。
大学卒業後は横浜護謨(現・横浜ゴム)に入社。会社員となっても陰毛研究の熱意は衰えず、全国各地を陰毛研究に走り回った。メインは観察とサンプル収集だったが、男女の関係になった女性も多かった。28歳の時には、局部を観察した女性の数は500人を超えていたという。
そうした研究の成果、平井は「三品三生(さんぼんさんせい)」という毛相判断を考案する。これは、陰毛の生え方や毛質を上品(じょうぼん)、中品(ちゅうぼん)、下品(げぼん)という3つに分類し、それによって性格や運勢を判断するというものである。これは実証的に見れば、陰毛の形状や性質にその人の人生経験やそれによって形成された性格などが反映されるということにほかならない。
平井の業績はあまり一般には知られることがなかったが、1976年に深夜番組「11PM」(日本テレビ系列)で紹介された。その際、すでに高齢になっていた平井が厳しい表情で女性の局部を不動で眺めていたかとおもうと、破顔一笑、フッと口元に笑みを浮かべる表情を司会の大橋巨泉が絶賛した。
平井の特色は、陰毛研究といっても女性に限定した点にある。これについて、なぜ男性の陰毛を見ないのかという質問に、平井は即座に答えた。
「好かんから」
その後も平井は研究を続け、81歳で没した。
惜しいことに、平井の毛相学を継承する者は現れなかったらしい。11PM出演でその名はいくらか知られたものの、物珍しさから変人扱いされる程度だったらしい。60年で3,000人とも言われた女性の陰毛のコレクションも、関連資料とともに夫人によって焼却廃棄されてしまったと伝えられる。
平井氏の唯一の著書、『毛相学入門』(1964年・日本文芸社)は、現在、極めて入手が困難となっている。
(文=橋本玉泉)
さあ、君も毛相学を学ぼう!