かつて手塚治虫氏が『やけっぱちのマリア』としてマンガの題材として取り上げ、オナホールなどよりも圧倒的に世間に対して知名度が高いアダルトグッズであるダッチワイフ。人間を模していながらも、個性的な容姿からアダルトグッズというよりもジョークグッズのひとつとしてしか認知していない方も多いのではないだろうか。しかし、市場が存在するということは、そこにニーズがあることはまちがいない。今回はエアドール・天野友里亜などをデザインしたトイズハート社・アダルトグッズデザイナーの女屋かんぱち氏とトイズハート社・常務取締役の石田貴之氏にダッチワイフの魅力とこれからのエロライフの行く末などをお伺いした。
──最近では、オリエント工業さんに代表されるラブドールなどのリアル志向系の物も増えてきています。しかし、あえてアニメ調のエアドールにこだわる理由とは、やはり価格帯を考えてということなのでしょうか?
女屋 「そうですね。いくらでもコストを費やせば、いい商品を作ることができます。しかし、そうなってしまうと1体の価格が、自家用車を購入するほどの値段にもなってしまう。そこまでの負担をユーザーに強いることは考えていません。私の師匠は昭和を代表するくらい著名なダッチ職人で、ダッチ作りのいろはと共にその精神も叩き込まれました。だからこそ、師匠が得意とした”ビニール人形”をどこまで極められるのか、にとことんこだわりたいというのもあります」
石田 「ドール系というジャンル自体が、アダルトグッズの中では高価格帯の部類に入ります。そして、金銭的に余裕があれば、リアルドール系に向かう人もいると思いますが、現実的にはなかなか難しいという方も少なくありません。だからこそ当社では、可能なかぎり安く、しっかりとした商品をお客様に届けなくてはと思っています」
──商品を製作する際に一番気を付ける点はどこでしょうか?
女屋 「形状ですね。空気を入れた際に、空気圧が高くなるところを作らないようにしています。手に5本の指を作ることは可能なのですが、そうするとその部位に圧がかかってしまい爆発するおそれがあります。そのため、なるべく滑らかに、球体に近づければ近づけるほどいいですね。形状が複雑になるほど、不良率も上がってきます」
──空気を入れる際の空気弁が、唇、もしくは首筋あたりにつけても雰囲気が出ていいかと思うのですが、背中に付いているのには理由があるのでしょうか?
女屋 「膨らませやすくするため、全身に空気が行き届きやすい背中に設置してあります。空気弁をおへそにしていた時期もあったのですが、ちょっと気持ちが悪いという意見もありましたのでやめました。そして、注入口にはあえて逆流防止弁を付けていません。付けてしまうと、空気を抜くのにものすごく時間がかかってしまいますから。膨らみやすく、空気を抜きやすいものを目指しました」
──エアドールに抱きつく以外に、製作者が予想もつかない動きをされるユーザーさんも多いと思います。どこまで対応できるか、どの体位で行うかなどはさらに予想が付きにくいと思いますが、その辺りはどのように対処されていますか?
女屋 「当社では、体位をバラバラで発売していますので、ひとつの人形でさまざまな体位を楽しむのではなく、ユーザーさんにとって一番イメージがわきやすい体位の商品を選んでいただくのがベストですね」
石田 「ほかのダッチワイフを作っているメーカーさんは、体位が固定されているタイプが多いですが、当社ではさまざまなバリエーションをご用意してあります。しかし、一度ハマると同じ体位の商品を買われる方が多いですね。そのタイプが気に入り、『購入するのは、もう数体目です』というお話も聞きます」
──顔のサイズが人間よりも大きくなっているのは、アニメに寄せているということだと思いますが、その際にモチーフにしたキャラクターなどはあるのでしょうか?
女屋「顔を人間の大きさにしてしまうと、眼、鼻、口が小さくなってしまい、こじんまりとしてしまいますので。やはり、目の大きさがアニメ系とリアル系の最大の違いですね。ちなみに顔の彫刻まで、私が全部仕上げています。特にモチーフにしたキャラクターはいませんが、世の中で流通している売れ筋のフィギュアを基にして顔の造形を作り上げ、等身大まで大きくしました」
──エアドールたちはちょっとした細かいところまで、作りこまれていますよね。例えば、このエアドール・天野友里亜の髪にはメッシュが入れられていますし、付属の専用体操服まであり、しかもオリジナルのタグまで付けられています。
女屋 「私のこだわりですね。ちょっとした小技をきかせています。髪のメッシュも複雑な技術なのですが、工場がレベルアップし出来るようになったためお願いしました。髪の色にも気を配り、染髪されたサンプルが付いている分厚いカタログの中から選びました。定期的にシャンプーやクシでとかすなどのメンテナンスをしてもらえれば、長持ちしますよ」
石田 「当社が好きな人というのは、そういう細かいところまで気付いてくれる人だと思います。非常に情熱的なユーザーさんが多いですから」
──破損した際などは、こちらはどのように処理すればいいのでしょうか?
女屋 「破れてしまったりした際には、普通に捨てることができます。うちはアニメ系の路線なので、これが道端に落ちていたとしても生首が落ちているとはとても思わないでしょう。これも僕が、こだわっていたことのひとつです」
石田 「これくらいならば、まだ、家庭用ゴミ袋で捨てることができますのでご家庭で処分していただければと思っています。廃棄の際に、クレームは来たことがないです」
──例えば、エロティックな表現を使う現代美術家・村上隆氏が作った場合には、価値は億単位を超えることも予想されます。クリエイターとして、何故世間の評価がここまで違うのだろうか、と考えられたことはありますか?
女屋 「アーティストというか、私はプロダクトデザイナーです。商売ありきのデザイナーで、自分自身をアーティストと捉えたくはないです。そして”アート”は視覚的であり、僕のやりたい事は触覚的なので、ちょっと分野が違うだろうとも考えています。それにエロさやユーザーさんたちが求めているものが、アーティスト気分でデザインしてしまうと消えてしまう気がします」
石田 「エアドールを求めるユーザーさんたちはアートとしては求めていないでしょう。しかし、『エアドールのおかげで日常生活を送れる』というくらい熱狂的な方がいらっしゃいます。この商品には、アートにはない救いがあると思うんです。それはオナホールの救いともまた違う救いです。エアドールには誰かと居る喜びであったり、安心感などをもたらしてくれます。そのため、問い合わせの電話や手紙からは大変な情熱を感じます」
──たしかに取材をするに当たり、部屋にエアドールを置いていましたが、誰かが居る感じが強くありました。帰宅するたびに『ただいま』と言ってしまいそうになりましたね。
石田 「そうなんです。エアドールは、必要な人にとっては生活に欠かせないものとして存在しているんです。しかし、それを理解出来ない一部の方が、これを強く否定しているように感じます。私もトイズハートというアダルトグッズの会社に異動する際には、賛否両論さまざまな意見があり、私の直近の部下たちからは、「なんで、そんなことを?」とさえ言われました。しかし、最近は逆に『よく選択を決意されましたね』という賞賛が聞こえてくるようになっています。まだまだですが、徐々にアダルトグッズへの偏見は減っていると思います」
──人間が生きていく以上、性欲処理は必要なことです。しかし、それを”悪いもの”としておかないと、という風潮がありますよね。
石田 「そうです。そしてその風潮は女性にもあります。レディコミのモニター応募のアンケートなどを見ても、『使用経験はないけれども、モニターをしてみたい』という意見が多く来ます。あとは、人に見つかるのが怖いと書かれているのが7~8割くらいありました。アダルトグッズを持っていることが悪という認識があるからですね。現在の日本だとバイブなどのアダルトグッズを持っていると、淫乱などと言われてしまう、だから嫌なのだろうなと。
当社に六法全書とエロ本を本棚に並べて置いている人間もいます。そういうふうに”エロ”が日常に溶けこんでいってもおかしくないと思うんです。元々、日本人は性的なものに嫌悪感が強くはなかったはずです。男性器をモチーフにしている偶像を置いた神社なども各地にありますし、夜這いなどのエロ文化もありました。そろそろ、もっと性癖をオープンにしてもいいのではないでしょうか?」
ダッチワイフに対するあふれでる愛と、アダルトグッズ全般に向けられる世間の狭量さを語ってくれた、お二方。偏見を持たず、何にでもトライすることで、健全で楽しいオナニーライフを楽しめるのかもしれない。”常識”などにとらわれず、自身の手で新しい分野へ挑戦してみてはいかがだろうか?
(取材・文=明日春人)
抱きしめたくなるかわいさ。
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蘭ちゃんは友里亜ちゃんのお姉ちゃん。一緒にいかが?