今年の5月、素人としてVTR出演した人物が元芸人だったとして”やらせ疑惑”が取りざたされた『クイズ☆タレント名鑑』(TBS系)。たとえバラエティー番組であっても道徳や倫理問題にうるさい今のテレビで、やらせ疑惑を逆手に取るような内容を放送し話題を集めている。
特に10日放送の2時間SPでのベン・ジョンソンのくだりは、掲示板やTwitterなどのネットを中心に賛否入り乱れる物議をかもしている。もちろん読者の中には当日の放送を見ていない人も多いだろうから、まずはこのベン・ジョンソンの一件を説明しよう。
「伝説のスターが過去の自分に挑戦」と銘打たれた10日の『タレント名鑑』で、ベン・ジョンソンは松野明美との800メートル走対決に出演した。かつての1流選手を起用して、長距離ランナーと短距離ランナーが中距離で対決したらどうなるかという企画。ちなみに、昨年の8月に同番組に出演したベンは、そのとき現在の100メートル走のタイムを計測。48歳で体重100キロオーバーという身ながら11秒50という好タイムを記録した。
そんなベンが先日の放送で注目を集めたのは、松野との対決が800メートル走だと判明した後、あからさまにふてくされた表情を見せたからだった。彼は「400メートルだったらいい」と言い張り、断固として800メートルでの勝負を拒否した。問題のVTRはその直後、そんな態度をするベンを説得するため番組側が裏金を渡しているような場面の映像のことだ。もちろん当初のベンのふてくされた態度から裏金を渡すシーンに至っては完全な演出だろう。しかし、たとえそうであっても、その悪ふざけ感は徹底していた。画像は低解像度の荒い映像で、いかにも隠し撮り風といった印象で、司会の田村淳はツッコミを入れる出演陣に対し「今の映像に関しては何も受け付けません」と言い放つ。その真偽の判定のため、ネットなどで注目をされたというわけだ。
つい先日、やらせ疑惑が報じられたばかりでありながら、嫌がるベン・ジョンソンに大枚を握らせて無理やり企画に参加させた風の放送をする『タレント名鑑』。話題になったベン・ジョンソンの現金受け渡し場面が、面白いという理由以外で流されたとは思えないが、実際相当のギャラでベンを呼んだのは間違いない。そしてそれは視聴者も分かっていることだ。ただ、たとえバラエティー番組であってもギャラが云々という話は表に出さない。お金の話題が絡むと人は見る目を変えてしまうからだ。チャリティー番組の司会者が何百万というギャラを貰っていると聞いたら(よくある話だが)視聴者はとたんに冷めてしまうに違いない。
しかし『タレント名鑑』はそんな場面を平然と流す。いわば番組制作におけるダークな部分を自ら晒し、露悪的とでも言えるような態度で番組を作る。あまりに悪趣味だと視聴者は離れてしまうだろうが、日曜20時という各局が総力を挙げて視聴率を取りにいく時間帯で毎回10%程度の数字を稼いでいる。大河ドラマや人気の長寿バラエティー番組が並んでいる中でこの数字は立派なものと言えるだろう。
露悪的でありながら、悪趣味に陥らないぎりぎりのラインを突く『タレント名鑑』。やらせ疑惑をものともせずに挑戦的な内容を放送するこの番組には、近頃のバラエティー番組にはなかなか見られなかった「自分たちが面白いと思うもの」を徹底的に放送するという覚悟があるように思える。司会の田村を始め、出演タレント陣には次世代を担う芸人たちが多く出演している。完全地デジ化を迎える新時代のテレビでバラエティーの雄となれるのか、今後の放送が楽しみだ。ちなみに来週は、やらせ疑惑の浮上した問題の企画「カラオケ歌われるまで帰れません!」の第3弾が放送される。予告では「驚異の新人登場!」と謳っていたが、果たしてそれは本当に素人なのか。それとも仕込みなのか。どちらにせよ面白ければ問題はない。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/)
著書『松本人志は夏目漱石である!』(宝島社新書)
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