13日、韓国で「公演法改正案」が提出された。あらかじめ収録されている楽曲に対して、歌っているように見せる、”口パク”(リップシンク)を禁止するものであり、本国で議論を呼んでいる。
これを提出した韓国自由先進党のイ・ミョンス議員は「商業的な公演で事前告知もなく、リップシンクするということは観客に対する欺瞞であり、詐欺行為」と主張し「歌唱力よりヴィジュアル系の歌手を養成する偏った現象が起きている」と、現在の韓国ミュージックシーンを批判した。
万が一法案が可決すれば、歌手などがこれに違反した場合、1年以下の懲役もしくは1,000万ウォン(約75万円)以下の罰金が科されることになるというから、イ議員の不満は相当のようだ。これを受け韓国では「当然歌唱力を優先すべき」とする賛成派と「歌手によっては舞台でのパフォーマンスも重要」とする反対派の間で、まさに賛否両論となっている。
イ議員が”偏った現象”とするのは、おそらく少女時代やKARAをはじめとした、パフォーマンス重視のグループが台頭していることについての発言だと推察できるが、この2つのグループには常々、口パクの噂が絶えない。少女時代に至ってはイベントで口の動きと音楽が全く合わずにメンバーが笑ってしまう、という動画も出回っており、口パクはもはや歌手と視聴者にとって”暗黙の了解”となっている感がある。
そして、この”口パク”は韓国の歌手だけに限ったものではない。この法案がもし可決すれば、韓国での公演が実現できなくなる日本の歌手も出てくるだろう。その筆頭がPerfumeだ。彼女たちの口パクは有名な話であり、本人たちも「作り込まれた世界を楽しんでほしい」とライブについての見解を示している。テクノポップアイドルという立ち位置である彼女らの声は、ご存じの通り、そもそもエフェクトが施されている。これはプロデューサーの中田ヤスタカが、ボーカル自体が他の楽器と同じであるという考えのもとにサウンド作りを行っているからであると言われている。リアルタイムで生歌にエフェクトをかけることもあるというが、そのサウンドは、歌唱力で勝負するというたぐいのものではなく、プロデューサーの狙い通り、楽器としてのボーカルの面白さを楽しむものであるだろう。そしてライブで彼女らのパフォーマンスが加わることで”作り込まれた世界”が完成する。
また、今や国民的アイドルグループとなったAKB48にも口パクの疑惑が付きまとう。先月13日にアップされた柏木由紀のブログには、ユニット「フレンチ・キス」で『MUSIC FAIR』(フジテレビ系)に出演した際の記述があるが、それによれば「全曲生歌、生バンド…初めて自分の声が返ってくるイヤモニというものも付けました」「今日は、AKBに入ってから片手で数えるくらいに入る貴重な経験をさせていただきました」と、ステージ上で歌う際に耳に着けるイヤーモニターを使用した経験が少ないことを明かし、暗に普段口パクを行っているということをほのめかした。また2月にAKB48が『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出演した際も、あまりにも歌と口の動きが合っていないと話題になった。同じくアイドルで言えば、ももいろクローバーZもその激しいライブパフォーマンスで、息の切れ切れな彼女らの歌声が、もうひとつの歌声にかぶっている時がままあり、こちらも口パクを前提としたライブを行っていることが推察できる。
これらの”口パク”疑惑が時に悪だとする向きもあるが、韓国や日本の音楽シーンにおいて、今は歌だけでなく、ダンスを含めてのパフォーマンスが主流である。観客に楽しんでもらうため、よりクオリティーの高いパフォーマンスを提供しようとする姿勢がもたらした手段とも言えるだろう。先のイ議員のように、アーティストに歌唱力を求める声もあるだろうが、歌唱力で勝負する歌手はそもそも”口パク”という手段は取らない。むしろ、むやみに音楽の多様性を阻害する法案が可決すれば、韓国の音楽シーンは歌唱力で勝負するだけのワンパターンな歌手ばかりとなり、日本の歌手らの公演も実現できなくなってしまう。それ自体、イ議員が主張する”偏った現象”であるような気がしないでもないのだが……。
イヤモニ初体験?