清志郎ライブは反原発一色!? 今問われるのはメディアと自分

※画像は『Baby #1』/EMIミュージックジャパンより

 5月2日、忌野清志郎の遺志を継ぐアーティストたちが日本武道館に集結した。ライブ「忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー 日本武道館 Love&Peace」のステージには、泉谷しげる、奥田民生、斉藤和義、ゆずなど計26組総勢30名以上のアーティストが上がり、清志郎の楽曲48曲を6時間にわたり熱唱した。特に、清志郎が生前から訴えていた反原発ソングを、その意志に強く賛同する泉谷や斉藤らが歌うと会場はヒートアップ。まるで武道館は反原発ライブのような盛り上がりを見せた。

 1万2,000人に及ぶ人々が集まった日本武道館。ライブは清志郎が自転車に乗って武道館にやってくるという映像が流されスタートした。まるで本当にすぐそこまでやってきたかのような臨場感あふれる演出に、会場にいる誰もが、”清志郎が生きていたら、今ごろはきっと愛車のオレンジ号で被災地を回っていたことだろう”という思いを抱く。そして、盟友・仲井戸”CHABO”麗市が名曲「雨あがりの夜空に」のイントロを演奏すると、会場のボルテージは一気にマックスに。1万2,000人の大合唱はその後6時間続いた。

 当日、泉谷が熱唱した「サマータイム・ブルース」や「ラヴ・ミー・テンダー」は、約20年も前に清志郎が日本語訳をつけた反核・反原発ソングとして有名だ。震災後に起こった原発事故の影響で、インターネットなどの動画サイトでは同曲らに関する動画が100万ダウンロードを突破し、CD店では売り切れが続出しているという。清志郎の死後に起こった原発事故という結果が、皮肉にも彼を聖人化させ、今になってようやく”反原発”という機運を高めているのだろう。だが、先にも記したように、彼はこれらの歌を20年も前から歌っていた。当時から彼に賛同した人も多いのだろうが、彼の思いが社会に反映されることはなかった。清志郎は、生前出演したテレビ番組の中で、「どんなに訴えても何も変わらない。戦争だって終わらないし、原発は増え続けている」と語り、「それでもミュージシャンは歌い続けるしかない」という切実な思いを吐露している。そして彼は歌い続け、58年という生涯を全うした。

 欧米では当たり前とされているアーティストたちの政治活動だが、日本ではどうも異端視される風潮がある。それが良いことなのか悪いことなのか、記者には見当すらつかないが、サザンオールスターズやミスターチルドレンといった日本を代表するビッグバンドは確かに政治色が薄いと言える。逆に、清志郎率いるRCサクセションなどには、超メジャーでありながら、サブカル的な印象を持っている人も多いだろう。それは、アーティストの政治的な発言を煙たがるメディアが清志郎らを敬遠した結果なのかもしれない。

 3.11以降、反原発を訴えるアーティストたちは直接現地に赴き、独自に活動を続けている。しかし彼らの活動が、テレビなどの大手メディアに大きく取り上げられることはない。ノーモア原発を1990年代から訴え続けているラッパーのECDは、新曲「反原発REMIX」をYouTubeユーチューブで公開した。反原発運動家として知られるキャンドル・ジュンは、震災後、福島と東京を何度も行き来して救援物資を届けている。が、テレビが届ける彼のニュースに”反原発”という文字はない。

「東電を大口スポンサーとする民放各局では、反原発を内容とする放送はできないでしょう。東電はスポンサーとなることで、反原発という言葉を封じ、さらには原発は安全だという印象を国民に与えてきたのです。いわば洗脳のようなものです」(業界関係者)

 清志郎の代表曲「雨あがりの夜空に」におけるダブルミーニングとは違い、彼の反核・反原発ソングは非常に直接的な言葉で語られている。きっとそれは、前述した彼の言葉から推測するに、現代社会の中における自分の非力さや音楽の限界を感じていたからではないだろうか。だから彼は「原子力はいらねえ」「放射能はいらねえ」と、あまりにも直接的な言葉を使って歌うしかなかった……。

 2009年の清志郎の葬儀で弔辞を読んだ甲本ヒロトは、バンドメンバーらと共にライブの終盤に登場し、「ROCK ME BABY」など3曲を熱唱した。ザ・ブルーハーツ時代に発表した「チェルノブイリ」でも知られる彼らだけに、泉谷や斉藤のように、反原発という意思表示があるかと思われたが、ヒロトが発した言葉にそのような表現はなかった。ただ、清志郎の楽曲に乗って振り上げられる彼の足は、いつにも増して高く、激しかった気がする。どうにもならない現実への抵抗とでも言おうか、まるでそこには足かせが絡み付いているかのようだった。ヒロトの振り上げられた足や激しく動く舌には、自由や平和への心からの渇望が感じられた。

 大手メディアなどで政治的な活動を好まれない日本のアーティストたちには、限界があるのかもしれない。そんなメディアの在り方は、確かに問題があるだろうが、知らぬ間とはいえ、それを築いたのはわれわれでもある。きっと本当にそんな社会が嫌なら、こうなる前に立ち止まることはできたはずだ。清志郎やヒロトの思いを実際の社会に反映するのは国民一人一人だ。今回の震災で問われているのは、政治や原発問題だけでなく、自分自身がどういう社会に生きていきたいのかということなのだろう。

(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/
著書『松本人志は夏目漱石である!』(宝島社新書)

『忌野清志郎 LIVE at SPACE SHOWER TV~THE KING OF ROCK SHOW~』

 
清志郎の勇姿は心のなかに……


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