『行け!稲中卓球部』などで知られる人気漫画家・古谷実の『ヒミズ』が映画化されることになった。メガホンを取るのは園子温。今年1月に公開された『冷たい熱帯魚』では、実際にあった猟奇殺人事件を題材に、過激な暴力描写で人間心理の奥深くを描いた監督だけに、青春残酷物語と言える『ヒミズ』の実写化にはうってつけの人物だろう。
「2010年に一般劇場公開された国内制作の映画は約260本でした。そのうち、コミック原作のものは20本程度です。この数が多いかどうかは判断の分かれるところでしょう。個人的には、漫画大国日本ですから、もっと多くの作品が実写化されてもいいと思うのですが、なかなかそう簡単にはいかないようです。やはり、人気漫画になればなるほど、ファンは登場人物たちのイメージを強く持っていますから、そのイメージを崩さずに実写化するというのは難しいのでしょう。それがうまくいかなければ却って反感を買ってしまいかねませんからね。どんなに面白い漫画で、映画用の脚本が完璧に仕上がっても、イメージ通りの俳優が見つからなければ撮影には踏み切れないのでしょう」(業界関係者)
今回映画化が発表された『ヒミズ』では、まだ誰が出演するのか伝えられていない。このことについて前出の関係者はこう述べる。
「そもそも『ヒミズ』というのは、中学生が主人公の漫画ですからね。配役といっても、今活躍している俳優さんから適当な人を見つけるのは難しいでしょう。コアなファンが多いことが予想される漫画ですから、それこそジャニーズJr.かなんかを主役に抜てきしたら反発は目に見えてます。それに、主人公の個性というよりは内面の描写が重要な作品ですからね。役者より監督の方がより重要と言えます。そういうことから園子温という名前を第一に挙げたのではないでしょうか。作風は違うかもしれませんけど、01年に公開された『リリイ・シュシュのすべて』(ロックウェル・アイズ)で市原隼人が映画デビューをしたように、『ヒミズ』の主人公も、まだ何のイメージも付いていない新人俳優が務めることになるのではないでしょうか」(前出)
ここ数年続く人気コミックの実写映画化。今年すでに公開された作品群にも、『GANTZ』(東宝)、『毎日かあさん』(松竹)、『あしたのジョー』(東宝)と、人気漫画の実写版が並んでいる。秋には『カイジ2』(東宝)、『スマグラー』(ワーナー・ブラザース)などの作品が公開を予定され、前出の関係者は、キャラクターのイメージが根付いている漫画の実写化は難しいと指摘したが、それを見事に(?)乗り越えた人気コミック映画化の流れは止まらない。
「コミック原作の映画が続々と公開されているのは、どちらにもうま味があるからです。たとえば、先日公開された『GANTZ』(東宝)の観客には、原作のファンが居て、嵐・二宮和也のファンが居ます。映画としては、それだけでも相当の数の集客が見込めます。そして、その観客の中には、二宮のファンで漫画に興味を持つという人も多いでしょう。つまり集客の見込める映画界と、新しいファンを獲得できる漫画界ということです」(制作会社関係者)
確かにネットに投稿されている映画『GANTZ』への感想を読むと、「二宮目的で映画を見たが、ぜひ漫画を読んでみたくなった」などの書き込みを多く目にする。だが、同じように目に付くのは、原作のファンによる「映画にはがっかりした」という言葉だ。しかもそれは、熱烈なファンであればあるほど、過激な言葉になっているように見受けられる。やはり、キャラクターへの個人的な思い入れを強く持っているファンを納得させるのは難しいということなのかもしれない。下手をすれば、いくら原作漫画のファンだろうと、公開前からまったく見る気を起こさないという事態にも陥る。つまり、よほどうまい配役をしない限り、彼らを単純に集客の見込める人々として数えるのは軽率だということだ。
コミックの実写化はファンが多ければ多いほど、それだけ強く批判される可能性も覚悟しなければならない。諸刃の剣でもあるのだ。12年の公開を予定している『ヒミズ』には、原作ファンを裏切らない作品になってもらいたい。きっと、園子温ならあの漫画の暗い部分を見事に表現できるだろう。そして、前出の関係者が言うように、配役をそれほど重視しないであろうこの映画では、原作の世界観にぴったりとはまった監督こそ重要と言える。そういう意味では、園子温を選択した『ヒミズ』は、すでに成功を約束されていると言えるのかもしれない。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/)
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