前々回に紹介した映画『コリン』のコラムでも少し触れましたが、2004年に公開された『ドーン・オブ・ザ・デッド』は衝撃的な作品でした。
ジョージ・A・ロメロ監督によるゾンビ映画のマスターピース『ゾンビ』(1978年)の正式なリメイク作品という点も、衝撃の一因ではあったのですが、それ以上に驚きだったのが、その卓越したビジュアルでした。
それまでの、ロメロ版に準拠した形のゾンビとは違い、まるで獲物を追う獰猛な野獣のごとく、人間に襲いかかるゾンビたち。ゾンビがまるで暴徒のごとく力任せに新鮮な肉を喰らおうとするさまは、スタイリッシュなビジュアルとともに、ゾンビ映画新世紀を予感させ、この作品以降、本家のロメロを含めて数多くのゾンビ映画が量産され、今も続く怒濤のゾンビ映画ラッシュにつながったのです。
そんな『ドーン~』で華々しく監督デビューを飾ったのが、ザック・スナイダーです。同世代の映像監督のほとんどがそうであるように、彼もまたCMやプロモーションビデオで実績を積み、その卓越した映像センスをバックに、フィルモグラフィーのスタートを見事な成功で飾りました。
以降スナイダーは、フランク・ミラーのグラフィックノベルをベースに、スパルタ王レオニダスとペルシア軍との戦いを、これまでの史劇映画とは全く異なるスタイリッシュな映像美で描いた『300』(07年)や、ヒーローたちのダークサイドを描き、公開前から世界中の映画ファンを熱狂させたアラン・ムーア原作の『ウォッチメン』(09年)、そしてフルCGアニメによるファンタジー大作『ガフールの伝説』(10年)など、デビューから10年足らずの若手でありながら、新作を発表するたびにセンセーショナルな話題を振りまく活躍を見せ、次代のハリウッドを背負って立つ期待株として映画ファンの注目を浴びる存在です。
そんなスナイダーですが、『ガフール~』が公開される少し前くらいのころ。早くも次々回作の映画の予告編が、映画ファンの間で静かに、かつ熱狂的に話題になっていました。
Youtube等で公開されていたその予告に描かれていたのは、セーラー服姿の美少女が、刀や銃を駆使して巨大な鎧武者やナチス・ドイツ相手に戦いを挑む姿でした。まるで日本の美少女アニメのような展開を、VFXを駆使して大胆に描いたその映像は、瞬く間に世界中に拡散。これまで以上にスナイダーへの期待感を高める結果となったのです。
その作品こそ、今回紹介する『エンジェル ウォーズ』であります。
欲に目のくらんだ継父によって、母親の遺産をすべて奪われ、愛する妹も殺されてしまった少女ベイビードール(エミリー・ブラウニング)。さらには継父の策略で、すべての罪をなすりつけられ、精神医療施設に送られます。このままではロボトミー手術によって、彼女は人格すらも奪われてしまうのです。
しかし、現実から目を背けるように逃避した空想の世界で、彼女は一人の賢者(スコット・グレン)に導かれ、脱出を試みようとするのです。そして、その脱出に必要な五つのアイテムを手に入れるべく、同じ施設に収容されたスイートピー(アビー・コーニッシュ)、ロケット(ジェナ・マローン)、ブロンディ(バネッサ・ハジェンズ)、アンバー(ジェイミー・チャン)ら四人の仲間たちと、共に戦うことを約束するのです。
空想とも現実ともつかない世界の中で、次々と現れる敵をなぎ倒し、着実にアイテムをゲットしていくベイビードールたち。果たして彼女らは、本当に自由を手に入れられるのでしょうか?
『エンジェル ウォーズ』は、まずその世界観に圧倒されること間違いないでしょう。ベイビードールの空想世界の中で繰り広げられる激しいバトルもさることながら、観る者の予想をはるかに超えた、二重三重の空想世界が張りめぐらされます。どれが現実かも定かではない中、一つ一つの世界が微妙にリンクしつつ、実際の脱走計画へとつながっていく構成は実によく練られています。空想と現実とのリンクという点においては、かのテリー・ギリアム監督のデストピア映画『未来世紀ブラジル』(85年)を彷彿する方も多いのではないでしょうか。『ブラジル』も本作同様、主人公の抑圧のメタファーとして、巨大な鎧武者が登場していましたが、スナイダーもその辺りを大いに意図しているのかもしれません。
そして、本ウェブ読者なら気になるガールアクションも、セーラー服に日本刀の金髪美少女が、巨大鎧武者軍団や『紅い眼鏡』のプロテクトギア+『ヘルシング』のナチ軍団を彷彿とさせるゾンビアーミー、果ては巨大なドラゴンと、重力すらも超越した四次元バトルを繰り広げるのです。そして後ろには、爆撃機やらヘリコプター、果ては巨大ロボットまで駆使し、仲間たちが彼女をバックアップしていきます、これこそまさに実写版『ふたりはプリキュア』とも形容したくなるような……いやいや、もともと80年代から90年代にかけて、日本アニメには『プロジェクトA子』(86年)など、美少女が刀やら機関銃を振り回して戦うアクションが山のように存在しておりました。そのムーブメントを、かって宮崎駿監督が、
「セーラー服が機関銃撃ちながら走り回ってるような、そんな作品ばかり作っていてはダメなんです!!」
と一喝しておりましたが、アニメ文化を貶めると思えたスタイルが、まさかこうしてハリウッドで重宝されようとは、よもや巨匠とて思わなかったことでしょう。
アニメといえば、本作の日本語吹き替え版は、人気声優ユニット、スフィア(寿美菜子・豊崎愛生・戸松遥・高垣彩陽)がベイビードールたちの声を担当します。寿と豊崎は『けいおん!』でも「放課後ティータイム」のメンバーとして人気を得ていますが、その勢いで洋画吹き替えにチャレンジというところ、楽しみ半分「本当にできるのか」半分という感じです。洋画吹き替えって、アニメとは違うスキルが要求されるしなぁ。
でも逆に彼女たちの起用が、この映画のOVA臭をより濃いものにし、アニオタや声優オタを巻き込めば、興行的にも敵なしでしょう。まさに毒をもって毒を制す。例え方間違えているような気もしますけど。
◆『エンジェル ウォーズ』
監督:ザック・スナイダー
出演:エミリー・ブラウニング、アビー・コーニッシュ、ジェナ・マローン、バネッサ・ハジェンズ、ジェイミー・チャン
製作年:2011年
劇場:丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
公開日:4月15日(金)
上映時間:110分
配給:ワーナー・ブラザース映画
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