「緊縛」と聞いて何を想像するだろうか。蝋燭の灯りが揺らめく蔵の中で、太い梁に麻縄で吊された女……。その肉体には蛇のように麻縄が絡みつき、女が苦悶で身をよじるたびにぎちぎちと縄が鳴く。
これがぼくたちが考える緊縛の典型的なイメージだ。そのステレオタイプな緊縛の世界に一石を投じた緊縛師がいる。
一鬼のこ(はじめ・きのこ)がその名前だ。ぼくは彼の経営する渋谷のメンバーズバー、「眠れる森の美女」に彼を訪ねた。
ほどなく現れた鬼のこ氏は渋谷のどこにいてもおかしくないような若者に見えた。短く刈られた髪にアゴひげ、トライバル柄の入ったTシャツを着た姿はK-1の選手のようにも見える。
以前から同種の店舗経営に携わっていた氏は、もともと緊縛に興味があったわけではなかった。客として来店してきた女性に逆調教のような形で縄を仕込まれたという。さらにイベントで招いた緊縛界の重鎮、故明智伝鬼との出会いが氏の緊縛観に決定的な方向性を与えたのだ。
「明智先生の縄はなんというか、自由でした。女性がほしいタイミング、ほしいテンションで、肉体が欲している形のままに自在に縛っていました」
当初は伝統的な緊縛を追求していた鬼のこ氏は、じきに新たな緊縛の形式に辿り着くこととなる。
それが「Cyber Rope」だ。
従来の緊縛は生々しいものだった。女の肉体からエロスを絞り出すために麻縄を施す。女の息づかいや汗、苦悶の表情、たわむ脂肪……。一鬼のこはそれとは違うクリーンで無機質な、エロを排除した緊縛を作ろうとしたのだった。
鬼のこは人ではなく、モノを緊縛しようとした。氏は女性に全身タイツを着せ、肉体のもつ生々しさを徹底的に排除した。さらにブラックライトで光る蛍光ロープを使用した。暗闇で妖しく光るロープは、クラブイベントなどでDJとコラボレーションしやすいものでもあった。
全身タイツを着て、蛍光ロープで緊縛されたその物体は照明が落ちるとただのシルエットとなる。光るラインが空中のなにものかをとらえている。それは女が縛られているというよりも、光がなにかの形をつくっている。ここにいたって鬼のこ氏は、空間を女の肉体のかたちに緊縛することに成功したのである。
そのCyber Ropeの創始者がこの冬、緊縛の一大イベントをオーガナイズする。それが「冬縛」だ。2011年1月29、30日と2日間、「クラブ アクシス」にて2ステージにわたって行われるこのイベントは、イギリス、ドイツ、アメリカ、カナダ、台湾など海外の緊縛師を多数招待し、日本の約20名の緊縛師もリストに名前を連ねている。このイベントは世界に「KINBAKU」がどのように受け入れられているか知る絶好の機会だ。もちろん緊縛だけではなく、トークショーやファッションショー、エア緊縛選手権(!)など内容は単なる緊縛ショーを超えている。またショーにインスパイアされた人のために自由に使える緊縛スペースも用意されている。もしかしたら、名のある緊縛師に縛りを教わることができるかもしれない。
「このイベントは日本でやることに意味があるとおもっています。日本人の縄は凄いということを示して、いつか日本で緊縛をやるのがステイタスになるようにしたいんです。海外のお客様にもたくさん来ていただいて、国際交流だとか世界の縄文化の交換ができるような世界大会になればうれしいですね」
と鬼のこ氏。
緊縛を知っている貴方も知らない貴方も、これを機会に緊縛に触れてみてはいかがだろうか。今までにない濃密な2日間になることをぼくは約束します。
(撮影・取材=珊瑚ky)
◆『縄屋・冬縛 一縄会』オフィシャルサイトはこちら
◆Rope Artist Hajime Kinoko Official Web Siteはこちら
一鬼のこ氏出演!