2007年の夏、池袋サンシャインシティ噴水広場で行われたPerfumeの「ポリリズム」リリース・イベントでのことだ。あるヲタがあ~ちゃんから爆レスをもらっていたものの、イベントが終わる頃には姿を消していた。「彼はどこに行ったの?」と友人に聞いたところ「途中で抜けてCutie Paiのイベントに行った」との答え。「そんなにCutie Paiっていいのか……?」と、名前を知っていただけの彼女たちのことを強く意識したのがその日だった。それが07年9月17日、もう3年以上前のことだ。
前回で掲載した2010年のアイドル作品のベスト10の中で、実はもっとも悩んだのがCutie Paiだった。Cutie Paiはたしかに「アイドル」としてメディアにも出ているけれど、実際はそう単純な存在でもないよなぁ……というのが実感できるのが、12月22日に発売された「お人形と魔法のレストラン」(Cutie Pai Records)だ。
Cutie Paiは、まゆちゃん(神崎真由美に似ている)とeyeタソ(天野あいに似ている)のふたりによる、「おもちゃの国『CUTIEらんど』からやってきたお人形」という設定のユニットだ。まゆちゃんが作詞作曲、eyeタソがVJを担当。ふたりとも個人としては事務所に所属しているものの、Cutie Paiとしては事務所に所属しておらず、セルフ・プロデュースという体制をとっている。この時点ですでに「アイドル」という感じではない。
実際、07年に「777」と題されたイベントを毎月開催していた頃のCutie Paiは、アイドルではあるけれど本質的にはバンドのようであり、まるで少年ナイフのアイドル版のような存在だった。アイドルそのものを志向して活動しているというよりは、水森亜土への憧れを公言するまゆちゃんの世界観を表現したら、結果的にアイドル的な文化との親和性が高かった、というようにも見えたのだ。
メンバー・チェンジなどもあり、当初の予定から1年遅れで遂にリリースされた「お人形と魔法のレストラン」は、Cutie Paiというユニットの特異さを痛感させる作品になっている。なにしろ、Cutie Paiを離れたメンバーが5人もヴォーカルやアートワークで参加しているのだから。聞いたこともない制作体制だ。写真もeyeタソ(天野あいと同一人物であるフォトグラファーのJulie Wataiに似ている)が手掛けているので、パッケージに関してもCutie Pai内で完結してしまっている。
「お人形と魔法のレストラン」に詰まっているのは、「Desktop my Girl」や「MAGNET LOVE」など、Mitchie Mitchellや木恵つよしが中心にサウンドを支えるテクノポップの佳曲たちだ。サンプリングされたヴォイスとともに混沌としたイントロで幕を開ける「SA」は、HONDALADYのマルによるサウンドのスケール感が素晴らしく、ラップも挿入される展開が聴く者のテンションを上げる。ELEKTELのpolymoogがアレンジした「Yellow」では、90年代っぽい音色のシンセドラムが鳴り響き、メロディー・ラインのR&Bっぽいテイストも新鮮だ。その一方で、間奏の寸劇も含めて80年代アイドル歌謡曲的な「トゥルルンテレフォン」やロック・ナンバーの「プロペラ」のような楽曲もあり、「歌謡曲ユニット」としてのCutie Paiは健在だ。すがすがしい確信犯ぶり。そしてアルバムは、神崎真由美のソングライターとしての代表作のひとつである傑作ミディアム・ナンバー「eve」で本編の幕を閉じる。新旧のメンバーが交互にヴォーカルを担当するこの楽曲に、歳月の流れを感じて感傷的になることをちょっとだけ許してほしい。
アルバムのタイトル通り、最初と最後にレストランを模したナレーションが入ることに面食らう人もいるだろうが、その世界も含めてCutie Pai。アイドルであると同時にクリエイターでもあり、それゆえに音楽ジャーナリズムに正当な評価を受けづらいポジションにいる。しかし、活動形態こそアイドルとしては異端であるCutie Paiだが、志向している音楽はあくまで普遍的なポップスだ。良いものは、良い。
さまざまな変遷を乗り越えて存続することが大変なのはアイドルに限ったことではない。ましてやインディーズならなおさらだ。07年に本誌「サイゾー」で初めてCutie Paiに取材したとき、まゆちゃんは「死ぬまでCutie Paiを続けます」とまで言い切って、実際に今も活動を続けている。そうした「いつまでも存在してくれるだろう」という安心感も、Cutie Paiが普通のアイドルとは大きく違うところのひとつなのだ。10年とか20年とかの単位で見守れそうなアイドルなんてCutie Paiだけだよ!
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