事件が起きたのは1984年7月11日のこと。神奈川県大和市に住む女子高校生宛てに、文通相手の女性から1個の郵便小包が届いた。早速包みを開いたところ、二重に包装されており、中の包装には愛知県西尾市の住所と女性の氏名が記されており、「東京中央郵便局窓口様」などと書かれた荷札が取りつけてあった。さらに、未使用の切手も貼られていた。
そして、女子高校生宛ての手紙も同封されていた。そこには、「突然こんな迷惑をかけます。この小包をきょうかあす、郵便局へもって行って下さい。これをお願いしますと言って下さい」(文章ママ)などと書かれてあった。
不審に思った女子高生が中身を確認しようと小包を開封すると、中には円筒状の容器が入っていた。
ますます怪しいと思った彼女は、その円筒のふたを開けてみたところ、突然爆発。女子高校生はすぐに近くの病院に運ばれたが、手や顔面、胸などに木片やプラスチック片が突き刺さり、幸い命に別状はなかったものの、全治1カ月の重傷を負った。
当初、「無関係な高校生を狙った陰湿な犯行」「不幸の手紙を真似た愉快犯」などと報じられたが、差出人の住所から特定され、事件翌日の12日朝、愛知県西尾市に住む17歳の男子高校生に任意同行を求めて事情を聞いたところ、犯行を自供。傷害容疑であっさりと逮捕された。
すると、高校生の用意周到、などとは間違っても言えない、何ともズサンな計画が明らかになっていった。
まず、犯行の動機は「失恋による女性への復讐」で、ターゲットは小包に記されていたは愛知県西尾市内に住む18歳の短大生だった。
高校生と短大生は中学時代の知り合いで、その頃に高校生が短大生に片思いから告白したものの、見事にふられてしまう。それでも彼女のことが忘れられない高校生は、84年1月に短大生を喫茶店に呼び出した。
ところが、やって来た短大生は、一人ではなく付き合っている彼氏と一緒だった。それを見た高校生は、失恋を痛感するとともに、自分を侮辱した短大生への復讐の念を燃え上がらせた。まさに、可愛さあまって憎さが百倍である。
そこで高校生は、まず雑誌の文通欄から適当に大和市に住む女子高校生を選ぶと、偽名を使って女性に成りすまし、文通を始めた。「ある程度文通して信頼関係ができれば、多少のことはしてくれるに違いない」と考えたのであった。「多少のこと」とは、自分の代わりに復讐のための爆弾を送ってくれるということである。
「自分から送れば足がつく。でも、第三者を経由すれば大丈夫だろう」
高校生は、そう考えた。そして、文通後数カ月が経った7月に、大和市の女子高校生に手製の爆弾を送りつけたというわけである。
犯行後、警察の取り調べに高校生は容疑をすべて認め、「まさか文通相手が小包を開けるとは思わなかった」と話したという。
それにしても、いかに偽名を使ったとしても、住所からいとも簡単に発送元が特定できるわけだから、わざわざ女性に成りすまして文通するなど、まったく無駄だったわけである。
とにかく、災難だったのは大和市の女子高校生で、手製爆弾の威力が微弱だったとはいえ何の関係もないのに大けがをする羽目になってしまった。本当にお気の毒としか言いようがない。
(文=橋本玉泉)