2000年代の「韓流ブーム」以降、お隣の国・韓国で大量に製作されるようになったのが韓国時代劇。時代劇といっても、日本の「時代劇」がイメージさせるようなチャンバラモノではなく、現代にも通じる人間ドラマをメインテーマにしたものから、知られざる歴史の裏側を暴く社会派作品、また「官能劇」と呼ばれるアダルト要素の強い作品まで、あらゆるテーマが描かれている。
03年の映画『スキャンダル』は18世紀末、李朝末期の朝鮮を舞台にした宮廷劇。主演を務めたペ・ヨンジュンが大胆な性描写に挑戦し、本国のファンのみならず、日本の韓流ファンをも虜にした。そして本作以降、韓国映画や韓国ドラマの時代劇作品では、盛んにこれらの官能劇が製作されているのだ。
『恋の罠─淫乱書生─』は06年の作品。性的なものはすべてタブーとされていた時代。有力者の息子であり、小説家としても名高い主人公が、官能小説の執筆に目覚めてしまう。自身と王妃との情事を匿名で官能小説にするが、その作品が人気となってしまい……といったストーリー。官能小説という題材も変態的だが、主人公が友人に挿絵を描かせるシーンは、露出趣味も合わさったテクニカルなエロス。タイトルに恥じない淫乱ぶりだ。
08 年の『霜花店(サンファジョム)運命、その愛』は、同性愛者の高麗王と、王に幼い頃から仕えてきた近衛部隊の隊長の関係を軸にした異色の三角関係を描いている。王は寵愛している隊長に似た子どもが欲しいと考え、隊長に王妃を身ごもらせるよう命令するが、二人の情事を見るうちに嫉妬心が芽生えはじめ……。という、なんともアブノーマルな内容で話題になった。同様のテーマを描いた『王の男』(06年)共々ヒットしたという。
これらの作品がアジアで成功を収めているのを受けて、現在でも韓国ではアダルト色の強い時代劇映画がコンスタントに続いているようだ。これまでは「民族の誇り」を謳うようなものが中心だったのに、ここ数年で急激に内容の過激化が進んでいる韓国時代劇の状況を皮肉ってか、あるニュースサイトではこれを「淫乱の歴史」と報じている。
1950年に始まる朝鮮戦争で国土は荒廃、その後も80年代の民主化まで軍事政権の統治が続いた韓国では、アダルト文化は長らく封印され続けてきた。80年代から徐々に力をつけてきた「コリアン・エロス」作品は一時期日本のポルノ業界にも進出したが、アダルト産業の中心が、銀幕からVHS・DVDに移り変わるにつれて国産AVに押されてしまい、今では下火となっている。保守的な地盤の強い韓国だけに、アダルト文化の花盛りに対しては、今でも賛否両論のようで、テレビ業界を中心に、規制を強めるような動きが強まっている。
一方、38度線を隔てた北朝鮮では。ご存知の通り、事実上の軍事独裁政権である朝鮮労働党が放送コードを管理しており、テレビでも映画でも、性的な表現は一切ナシ(ただし、「日帝・米帝による強姦行為」の宣伝などは例外)。「南の文化は退廃的だ」という宣伝を行っている手前か、露骨な性表現を庶民に見せるのはタブーになっているようである。 世界的に見ても、「Hentai」や「Bukkake」が世界共通語になり、日本製のAVが世界中で人気になるなど、「エロ大国」としての日本の地位は確乎たるものだ。しかし、かつては日本が最も得意としていた製鉄や半導体製造などの分野で、後発の韓国との激しい競争にさらされているのも事実。持ち前の「追いつけ・追い越せ精神」で、エロの分野でも韓流ブームが巻き起こる、そんな時代も来るのだろうか。