夢か現か幻か…魅惑的な人形を裸で演じ切る真性女優・西条美咲インタビュー

 2009年、谷崎潤一郎原作の映画『白日夢』で、新人とは思えない堂々とした演技で銀幕デビューを飾った女優・西条美咲。

 その後も舞台『女優』では日本映画界の大女優・岡田茉莉子と堂々のW主演、『新宿ミッドナイトベイビー』などでも主演を張り、存在感を見せつけている。

 そんな彼女が、セカンド写真集『人形鏡』(ブックマン社)を発売した。

 2009年12月に発売されたファースト写真集『主演女優賞』(スコラマガジン)では、”動きのある写真”にこだわり、女優として自らを表現した西条美咲だが、今回のテーマはズバリ”人形”だという。「生きた人間が人形になった世界」……にわかにはイメージしがたい独自の世界観を、作品の中で彼女は見事に表現しきっている。まさに人形だ。西条美咲はなぜ今、人形になりたがったのか?

 

金色の髪にヘッドドレスを飾られても、人形は笑わない
所有主にポーズを取らされなければ、虚ろな瞳で足を投げ出すまでだ

──前回の写真集は「動きのあるものがいい」というテーマで制作していましたよね。今回は、敢えて逆に、動かない人形というテーマを選択したのですか?

西条美咲(以下、美咲)そうです。ファーストでちゃんと動きのあるものをできたので、今度は逆に「静」で。日本の著名な人形作家で恋月姫さんという方がいるのですが、その作品集を見て、衝撃を受けたんです。命のない人形のはずなのに、まるで生命を持っているかのように見えて……。少女の人形が多いんですけど、すごく清くて触っちゃいけない神聖なオーラをまとっている。それなのに、同時に気品のあるエロティックさも漂っているんです。恋月姫さんの作品と向き合った時に、自分も彼女たちと同じ、時間の止まった世界に入ってしまったような感覚を得ました。その世界を自分で表現できないかなあ、と。

──イメージは自分の中で固まっていたんですね。

美咲 でも始めは、なかなか理解してもらえませんでした。マネジャーさんが営業先で出版社の方に、コスプレとどう違うのか、などと聞かれて説明に困ったようです。今この完成品を見てもらえれば、分かってもらえると思うんですけど、何もない状態で概念を説明するのは大変でしたね。

──やってみたいなあ、って思っても、希望が実現に至らないことって多いですが、西条さんは突き抜けてますよね。やると決めたら絶対、というところがある。

美咲 執着心が強くて。ひとつのことにすごくこだわるんです。それに、どうせやるなら、長く見ていただける写真集を作りたい。普通の写真集って、三カ月くらいで回収っていうのが基本で、その期間を過ぎればもう過去のものになってしまう。せっかく頑張って作ったものがたった三カ月、よくて一年、五年経ったらもうどこにあるか分からない……そんなのもったいない! そんなのイヤなんです。だから、こういう作品として世に出せば、寿命の長い写真集になるかもしれないと思ったんです。そうすることで、より多くの人に見てもらえるかもしれないじゃないですか。

──なるほど。確かに、これはエンタメでもあるけれど、芸術でもあります。一過性の商品では終わらないでしょうね。また、作品の中では思い切ってヌードも披露していますよね。しかも扇情的な見せ方ではないのにエロいし、色っぽい。これ、本物の裸ですよね?

おもちゃ箱の中に投げ込まれた人形
この肢体だけを見て、人間と人形の区別がつくだろうか

美咲 かなりキワどいショットも多いですよね。人形の肌の質感を出すために、全身に白いファンデーションを塗っているんですよ、すごーく薄く。体は人形でできているって誤解されるくらいリアルなんです。乳首と股間部分は、生々しくならないようにちょっと工夫して撮っていますが、生身かどうかはご想像にお任せします。実はこれ(股間部分を指さして)、最初は(縦の)ラインもあったんですよ。でも、ラインがあると出版するにあたって規制されてしまうので、分かりにくくしたんです。自分的には、あったほうがずっといいと思ったんですけどね。

──肘や膝の関節、人形のようにボコッとしていますけど、これは一体?

美咲 ゴムを巻いているんです。球体関節人形のようでしょう?

──まさに。それっぽく見えていますね! それにしても、表情だけでなく、全身で人形を演じているのが伝わります。脱いでるのに人形っぽいってすごいですよね。

美咲 結構苦労しました。球体人形を観察して、人形そのものの関節の動き方を研究したんです。人形のたくさん展示してある美術館へ何度も行って、でも人形に触っちゃいけないので、とにかくひたすら見て、見て、見て。

──そして覚えたと。再現力がハンパないですね。写真を撮られている、という以上に、演じているという感じ?

美咲 そうですね。演じている感覚が大きい。撮影の間は、骨が固くなったイメージを浮かべていました。筋肉とか血液とか肉も、固くなってしまったイメージ。人形って木などでできているものが多いので、すごく固いはずなんです、実際。自分の肉体もそういう物質でできているものであると想定して、指先まで神経を集中させてポージングしました。固い物体になりきったつもりで。

「人間」として取材に応じてくれた時の素顔は穏やかで聡明

──意識してもなかなか集中力が持つものではないと思うんですけど。撮影は三日間で行ったと聞いていますが、すごい緊張感の三日間ですね。

美咲 あ、でもぶっ続けで撮ったわけではないんです。一日目の後、撮った写真を並べてミーティングをして、さてどうだったのか、と反省会。二回目の後にも、何が足りている、足りてないとか話し合いました。撮影に臨むまで、何回も何回も集まって打ち合わせを繰り返しました。

──長い戦いでもあったわけですね。この写真集のスタッフたちと、またお仕事したいと思います?

美咲 うん、すごく思います。とてもいいものができたので。違うコンセプトでまたやりたいなあと。まだ言えませんけど、斬新なテーマが頭の中にまだまだいっぱいあるんですよ。今考えてるのは、結構、命がけのもの(笑)。私だけじゃなくてカメラマンも命がけです。具体的に言っちゃうと、先に誰かにやられちゃいそうでイヤなんですけど……。

──ええっ? なんですか、空を飛ぶ系ですか? スカイダイビングとかバンジージャンプとか……。

美咲 そんな無茶なものじゃないですけど、これもとても面白くて綺麗だと思います。

──楽しみにしています。

横たわる人形。本当に木で作られたようだ
服をすべて脱がされ、裸で仕舞われていく
儚げな表情、決して微笑むことはない
瞳の奥まで「人形」と化している

●西条美咲(さいじょう・みさき)
1986年京都府生まれ。09年7月、舞台『新宿ミッドナイトベイビー』にいしだ壱成とW主演。同年9月に公開された映画『白日夢』でヒロインに抜擢され、映画デビュー。2010年には舞台で大女優・岡田茉莉子とのW主演の他、山本モナともW主演する。濡れ場も厭わない度胸の良さと天性の勘の良さで女優としての階段を着実に昇っている。

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