「女性専用車両に反対する会」に潜入!!

*イメージ画像:『女性専用車両の社会学』 著:堀井光俊/秀明出版会

 YouTubeなどの動画サイトに、女性専用車両に故意に乗車する男性たちの動画がアップされ、一部のネットユーザーの関心をさらっていることはご存知だろうか。注意する駅員や乗客の女性との激しいやりとりが、音声で生々しく記録されている。

 これは「女性専用車両に反対する会」のメンバーによる、「非協力乗車会」という活動だ。動画からは、彼らが駅員や女性客の抵抗を受けながらも、自分たちの行動の正当性を激しく訴えている様子が分かる。女性専用車両は、「絶対に女性だけが乗れる車両」という認識を持っている人が多いと思うが、公共の交通機関から男性だけを強制的に排除するのは憲法条文に抵触するため、鉄道会社はあくまでも「任意協力」という形をとっている。そのため、男性も自由に乗る権利がある、というのが彼らの主張だ。

 なぜ、こんなことまでしなければいけないのだろうか。

 筆者は女性であるうえ、朝の混雑した時間帯に電車に乗ることもなく、人権問題にも疎い。そのためか、これまで「女性専用車両」についてなんの問題意識もなかったのが正直なところである。一方で、ここまで敏感に反応する人たちがいる。何を考えているのか知りたい。私は8月22日に開かれた彼らの「関東集会」に取材に行くことにした。

 彼らは公民館の一室で、和気あいあいと「集会」を開いていた。関東本部長と呼ばれる一人の男性が壇上に立ち、会を進行している。集まっているのは15名ほどで、すべて男性である。20代から30代の男性が多かった。

「あ、記者さんですよね?」

 私が到着するとにこやかに迎えてくれ、早速質疑応答が始まった。

──会の会員数、男女比、発足のきっかけを教えてください。

「会員数は約130名。ほとんどは男性で、女性は15、6人。仕事や場所もそれぞれで全員揃う、ということはありえない。家庭があるとどうしても……。発足は、2003年に関西で。当時関東では当時夜の京王と、深夜の埼京線だけで、あんまり女性専用車両に関心を持っている人は少なかった。関西では阪急で終日実施したり、広まっていった。そこで関西でインターネットの掲示板で『おかしいんじゃないか』という声が出てどんどん広まっていった」

──女性専用車両に反対する一番の理由はなんですか?

「一番のおおもとは男性差別です。痴漢だけでなく、善良な男性も差別してしまうこと。痴漢対策にはもちろん賛成だが、だからといって一般の善良な男性も排除していいのか、という問題です。関西では腰痛のひどい会員がいて、女性専用車両が都合のいい位置にあったため乗せて欲しいと言っても無理矢理ひきずり降ろされそうになった。名目上は任意協力となっているが、実際は強制排除なのです」

 ほかにもさまざまな意見があった。

・男性を全員犯罪者(痴漢)扱いしている、という意味で男性の名誉を傷つけているから
・女性専用車はガラガラで隣の一般車の方が混んでいる。女性がそこまで利用しないということは、痴漢はそこまでひどくないんではないだろうか? 痴漢について大げさでは?
・痴漢が減っているならいいが、鉄道会社の、「痴漢対策をしている」という免罪符になって、本当に有効な監視カメラの導入などのお金が掛かる痴漢対策を先送りさせている
・基本的に男だろうが女だろうが自由にどの車両にも乗られるべき。それを国に一部の政治家が圧力をかけて、導入させた。去年、一番最初に導入させた都議会議員のお宅におしかけた。最初は威丈高だったが、こちらが説明すると、「法律で強制できないとは知らなかった」と。政治家でさえこの程度の認識しかない

──みなさんのスタンスは同じなのでしょうか?

「女性専用車両に反対する、というところは同じだが、度合いが違う。女性専用車両には反対だが、映画館のレディースデイは別にいい、という人もいれば、そういうのは全部反対、というひともいるし……そもそも反対する理由がそれぞれ違う。政治問題は絶対許さないとか…スタンスは個人個人ですね。年齢も職業もバラバラ。でもこうやって活動しているうちに、いまでは親友以上の信頼関係ができている人もいます。ひとりでは弱いですが、人が集まるといろいろなことができます。ただ、これも一種の政治的な問題ですから、メンバーの中には保守系もいるし革新系もいる。そのへんで対立すると危うくなることもあります。」

──女性専用車両は痴漢対策になっているでしょうか?

「残念ながらなっていません。統計のデータを見ても明らかです。減った路線はひとつもない。防犯カメラが有効。痴漢は再発率が非常に高い。そして、痴漢対策と言われると男性は反対しにくい。誹謗中傷で一番多いのは、痴漢対策に反対するとは何事だ、痴漢に苦しむ女性の気持ちがわからないのか、といった意見です。まともな痴漢対策になっていないものにそんなことを言われても……痴漢対策に反対するものは一人もいない。マジメに考えているからこそ、こんなものおかしいといっている訳です」

──女性専用車両は男女差別でしょうか?

「もちろんです。昔は男が優遇されていることは確かにあった。でもそのかわり義務と責任もあった。ところがいまは義務と責任だけは男に押し付けられて、権利は女性の方が増やされている。これではいざというときに男は女性たちを守らなくなる。鉄道事故でもっておびただしい犠牲が出て、たとえ自分が無傷でも専用車の女性なんか助けようと思わない。「助けてー」なんていわれても、自分だけ逃げます。男性客を排除しておいて、いざというときに助けて、なんて都合がいい。自分勝手というか。そして、女性専用車両は女性を弱者と定義する女性差別でもあります」

──男性専用車両を導入すべき、との声もありますが?

「男性専用車両もあってはいけない。それは差別を差別で返すこと。導入は求めていない。そういった意見が多いけど…それでは女性専用車両に反対できなくなる」

──最終的な目的は?

「女性専用車両の廃止です。廃止したら、この会は解散すると決まっているんです。代替案としては弱者優先車両。病気や障害を抱えた人が優先的に乗れる、「思いやり車両」なら諸手をあげて賛成する。男性差別にならない方向で」

──非協力乗車会に踏み切ったワケは?

「女性専用車両はあくまで一般車両です。任意であることを周知させたり、男性も乗れることをPRしようじゃないか、と。始めの頃はもう大変でした。駅員の声かけもしつこいし、乗客もしつこい。騒ぎもおこしました。10人くらいでイベントとしてやるときもありますが、個人で普通に乗る場合もあります。」

──駅員や乗客の反応はいかがですか?

「最近は駅員も分かっているのであまりしつこい声かけはなくなったが、そのかわり女性客からいろいろ言われるようになった。『ここは女性専用車両です、出て行きなさい』とか。今年の1月の事件はウェブ上に音声が上がってます。3月にも会員が衝突してしまいました」

 海外では、中東などは宗教的な理由から女性専用車両が導入されているほか、フィリピンやインドの大都市でも女性専用車両が運用されている。しかし韓国ではいったん導入されたものの反対派が圧倒的に多く、台湾では「男性差別だ」として3カ月で廃止されている。各国でも対応はそれぞれだが、日本は「女性専用車両」に対しての認識が甘いまま、なんとなく受け入れている、という印象をうけた。それを「寛容」と見るか、「鈍感」と見るかは意見の分かれるところだろう。
(取材・文=ヨーコ)

「女性専用車両 ラグランTシャツ」

 
無言の抗議!


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