1989年から2009年までの20年間、毎年軍事関連の予算額が2桁増となる大軍拡を続け、いまや日本をはじめとするアジア諸国の、国防上の脅威として厳然と立ちはだかっている中国軍。正式名称は中国人民解放軍といい、厳密には国軍ではなく、「中国共産党の軍事部門」という、特殊な性質をもっている。
特別軍事に興味のない人でも、ときおりニュースに流れてくる軍事パレードの光景は、一度ならず見たことがある人も多いのではないだろうか。一糸乱れぬ行進をする兵士たち、密集して進む戦車の一群、それに、ミサイルを搭載した軍用車両のあの威容……。天安門広場前に陣取る車列の写真を見るだけで、「パンパパンパパーパ、パンパパパパパーパ、パパパパパパパー♪」(註:中国の国歌「義勇軍進行曲」)というメロディが脳内で再生されるのは、決して筆者だけではないはず。
そんな人民解放軍の内部でこのたび、異例の布告が行われた。
中国の国営英字紙「チャイナ・デイリー」によれば、機密情報の漏洩を防ぐためという名目で、中国政府は、今月15日以降、人民解放軍の兵士がいわゆる「出会い系サイト」を利用することを禁止したという。その代わりとして、軍の司令官らが、独身の兵士の恋人探しを支援する方策を検討しているところだとのこと。
この布告では、出会い系サイトと同時に、兵士のブログの利用も禁じられており、西側諸国に暮らす我々としては「不自由だろうなぁ」と感じてしまうような内容となっている。ブログも使い方次第では「出会い系」になるし、また、機密漏洩につながるおそれもある、と踏んでの処断だったのだろう。
とはいえ、司令官も軍人であり、多くの兵士に紹介できるほど多数の知人女性がいるわけでもないはずだ。現在のところ、駐屯地のある地元自治体の女性組合や、女性党員による共産党の下部組織「婦女連合会」が、恋人斡旋の受け皿になるものと考えられている。
たしかに「出会い系の利用禁止」という規則は、欧米や日本の考え方でいけば、基本的人権のうちのひとつの「自由恋愛」と相反するものかもしれない。だが、女性スパイを近づけて、色仕掛けで機密情報を聞き出したり、便宜を図らせたりする「ハニートラップ」とよばれる間諜技術も存在していることから、軍人という立場にいる者にとっては、ある程度は仕方のないことだともいえるだろう。ちなみに2006年には、日本の領事館員や海上自衛官が、ハニートラップによって、イージス艦の情報など、重要な機密情報を中国に流出させていた疑惑がもたれている。当該の領事館員は後に自殺を遂げており、このことは国際問題にもなった。
ところで、人民解放軍以外の諸国軍では、恋愛に関して、どのような制度を敷いているのだろう。
まずは我が国の領土を守る、自衛隊の場合。
「出会い系サイトに登録することにも、外国人と恋愛・結婚することにも、規制はありません。また最近では、女性の自衛官も増えており、自衛隊内での結婚、といったケースも昭和期に比べ多くなっています。ですがやはり、他の職場と比べると、『出会いの少ない職場』であることは間違いないでしょうね。実のところ私も、数年前に出会い系サイトを使っていたことがありますが、出会いはありませんでした」(陸上自衛隊員の男性)
また、女性と触れ合う機会が少なく、それでいてお金を貯めこむ傾向にある自衛官は、世にはびこる「婚活女子」たちのターゲットとして申し分のない職種でもあるという。彼らは軍務の中で数多くの免許を取得しており、退官後にその技能を買われ、民間企業で高い年収を稼ぎ出す元自衛官も少なくないのである。
次いで、世界最大の軍事力をもつアメリカ合衆国の場合。これは中国と正反対でビックリするかもしれないが、陸海空軍、海兵隊、沿岸警備隊に所属する男女を対象とした出会い系サイト「Military Mates」なるものが、有志によって運営されている。当然、兵士の出会い系サイトへの登録の制限はないようだ。女性兵士の割合が比較的高いアメリカ軍だけに、Military Matesでは、米兵同士のカップルが多数成立しているという。
キャンプ座間に所属する、ある米兵はこう語る。
「私の場合には、学生時代に付き合い始めた妻を日本に呼び寄せ、軍人用の住宅で、息子を含めた家族3人で暮らしています。ひとたび有事とあらば、家族を日本の地に残して戦地に向かうわけですが、私は家族を信頼しているし、家族も私のことを信頼しています」
家族を異国の地に残し、命をかけて戦地へ行く兵士という職務だけに、この「信頼している」という言葉の意味するところは複雑だ。命を落とす危険があるのはもちろん、意思が弱ければ、現地の売春宿に通うかもしれないし、場合によっては、犯罪を犯してしまうかもしれない。果てには不在中の妻の浮気にまで気を配らなければいけないのだから、うまいこと家庭を築くことができたからといって、兵士の生活に安堵というものはないのだろう。
最後に、世界でも珍しい「男女皆兵制度」を敷くイスラエルの例を挙げてみよう。
イスラエルは、建国以来敵対するアラブ人勢力に周囲を囲まれており、冷戦下に4回の中東戦争を戦ったという経験から、男性のみならず女性にも兵役を課し、少ない人口で多くの戦力を維持するよう務めている。そのため、他国の徴兵制度ではあり得ないようなことだが、兵役中に恋に落ちるパターンが少なくないという。
敵の捕虜になる危険性も勘案してか、イスラエルの女性兵士の任務はもっぱら、補給などの後方支援活動。基本的に兵舎は別々だが、それでも同じ軍という組織で活動しているだけあり、出会いの機会はそれなりに用意されている様子だ。
ちなみに、女性兵士にも男性同様に厳しい訓練が課されることから、イスラエルは「女のコが世界最強の国」として知られている。イスラエル人の夫婦は、男女ともに兵役あがり、という場合がほとんど。かの国の場合には、ちょっとした夫婦喧嘩も、かなりの緊張感をもったものになるに違いない……。
このように、各国の国情を象徴しているとも言える、軍人たちの出会い事情。独特の世界に暮らす軍人たちとはいえ、「異性との出会いになんか興味がない」なんてことは、洋の東西を問わず、あり得ないようである。
いいじゃんね。