これから何かが始まる。東京女子流はそんな期待を抱かせてくれる存在だ。もちろんそれは優秀なスタッフ・ワークの産物で、現在のところスタッフの活動ぶりが東京女子流自体の存在感を追い抜いてしまいそうなのだけれど、それもまたアイドルという存在がどうやって生み出されるのかを雄弁に物語っている。
東京女子流は、エイベックスから5月5日にシングル「キラリ☆」でデビューした5人組。年齢は全員が非公開とされているが、どう見てもローティーンだ。というか、単純に幼い。私が初めて東京女子流でフックした動画は、メンバーが「たらこキユーピー」のように体に布団を巻いてじゃれあっているという無邪気な光景を記録したものだった。子どもすぎるだろ! しかし、このぐらいの年齢のほうが長期間マーケットで戦えることも考慮されているのだろう。ビジネスとして、冷静に。
東京女子流の売り出し方も、インターネット重視の姿勢が特徴的だ。ブログ、YouTube、Twitter、mixi、GREE、MySpace、メールマガジンと、使えるだけのツールをかたっぱしから利用している。さらに、5月3日のライヴはUstream.tvとニコニコ動画で生中継された。インターネットを通じてじわじわと話題を広げていくことを狙い、それは少なくとも既存のアイドルファン層には確実に効いている。
そうした下準備のうえでリリースされたデビュー・シングルが「キラリ☆」だ。安全地帯やSMAPへの作品提供で知られる黒須チヒロが作詞を担当し、その歌詞は「新しい季節」を重要なキーワードにして希望に溢れた「これから感」に満ちた作品だ。ビデオ・クリップでは、メンバーが都会のなかでそれぞれに新しい生活を始めるかのようなイメージが幾重にも現れる。「キラリ☆」は、聴く者や見る者に「架空の懐かしさ」すら感じさせる作品だ。この楽曲があえてデビュー・シングルとして選ばれた意味は重い。
作曲はAKB48などへ楽曲提供をしてきた山元祐介。そのメロディーをファンキーなリズムとともにソウルフルに仕上げているのは、編曲の松井寛だ。MISIAの1998年の大ヒット曲「つつみ込むように…」も彼が編曲を手掛けた作品。「キラリ☆」は、かつてのtoutouや現在の9nineのブルー・アイド・ソウル・アイドル歌謡をも連想させる音楽性だ。そして松井寛は、同じエイベックスからデビューしながらも2006年に解散したSweetSの作品にも関わっていた。
しかも、東京女子流は5月5日に「キラリ☆」を発売したばかりなのに、5月19日には早くもセカンド・シングル「おんなじキモチ」をリリースするのだ。この楽曲にも黒須チヒロと松井寛が参加しているのだが、ソウル色をより強めて、70年代ディスコ・テイストすら漂う。アイドルっぽさが一気に濃くなったジャケットといい、こちらのほうが勝負作という雰囲気だ。オリコンの週間シングルランキングで初登場30位であった「キラリ☆」は前哨戦だったと見るほうが正しいだろう。
東京女子流はこれからテレビへの露出も増えていくだろう。資本を投下した本格的なセールス活動はこれからだ。そう考えると、「キラリ☆」に込められた「これから感」は様々な意味で実にトリッキーだ。メンバーの個性もこれからどんどん強くなるに違いない。
産業としてアイドルが生み出され、幼い少女たちがアイドルという存在になっていく。東京女子流の今後は、ビジネスとメンバーそれぞれの人生の両面で興味深い。希望と楽しさのなかに、少しだけ残酷な匂いがする。そのすべてを包み込んで、これから何かが始まるのだ。