「地震、雷、火事、おやじ」ということわざにもなっているように、地震は「壊滅」の代名詞である。人類が大量の原水爆を保有する現代にあっても、大地震はなお、破滅的大災害の筆頭にたっている。
かつて日本では「ナマズが起こすもの」とされ、中国では「地中の龍が起こすもの」とされていた大地震。しかしそれも昔の話、現代では科学的に地震のメカニズムが解明され、またその予測精度も向上しつつある。
しかしながらこのたび、21世紀を迎えて10年が経過した今になって、「地中の龍」以上に滑稽と言わざるを得ないものが、地震の誘因としてあげつらわれ始めた。
それは「おっぱい」だ。
ことの発端は、イランのホジャトレスラム(高位のイスラム法学者)である、カゼム・セディーギー氏による、以下の発言である。
「女性が露出度の高い服装をすることにより、若い男性が道を誤り、社会において不倫行為が増え、その結果地震が増えるのである」
この発言、もともとは女性を誹謗する目的というよりも、イスラム教徒の風紀の乱れを嘆いてのものだったとされる。災厄を代表する「地震」を比喩としてもちだしたのは、イランが日本同様の地震国だったからであるが、女性の服装とは直接の関連のない自然現象を持ち出したことが一連の騒動につながった。
この主張への反対の声は、国際社会でイランと対峙するアメリカ合衆国から挙がった。「すべての理由を女性の服装に求めるのは納得がいかない」とする女子学生が米国のウェブサイト上で仲間を集って始めたのが、「Boobquake」、さしずめ「大乳震」なる運動だ。
実験趣旨は以下の通り。
「2010年4月26日、世界中の女性が同時多発的に挑発的な格好でおっぱいを揺らし、それによって地震が発生しないことをもって、女性の服装と地震とに相関性がないことを立証する」
今日までに、10万人近い人が参加を表明しているという同実験。これは、アメリカを中心とした西側諸国の自由主義者たちによる、反イラン的行動と見ることもできる。
2001年の全米同時多発テロを予見したとも言われる著作のひとつに、サミュエル・ハンチントンによる『文明の衝突』がある。この中では、西欧文明とイスラム文明との衝突の激化が予言されており、01年以来今般に至る米国のアフガン戦争・イラク戦争は、この「文明の衝突」論で説明することができる。
「文明の衝突」の最前線が「おっぱい」にまで及んだ、今回の「Boobquake」騒動。果たして本当におっぱいが地震を起こすのかはわからないが、草の根から始まった今回の実験運動は、西欧文明とイスラム文明が対立する現代においてどのような政治的意義をもち得るのか、という難しい問題にも発展しているのである。
ウェブサービス「Facebook」を通じて筆者と友人となった米国人女性(26)のひとりは、こう話す。
「イスラム教圏の女性が弾圧されているとか、そういう事実はニュースで聞くし、私はその(イスラム保守主義の)考えに賛成しないので、この両のバストを揺らして反論するつもりです。地震なんかおきっこないし、逆に、このようなお祭り騒ぎを提供してくれたイランのマヌケなホジャトレスラムには感謝もしています。ただし、乳頭を露出するつもりはありません」
ちなみにハンチントンの著作では、「西欧文明とも距離をおく、一種の孤立文明」として紹介されている日本文明だが、本邦が地震国であり、したがって科学的地震予知の最先進国であることからも、地震の誘因が女性の服装にあるとする主張は滑稽だ、と考える人がほとんどであろう。
末筆ながら、ごく平均的な日本人男性としての筆者の意見を言わせてもらうとするならば、科学的検証や文明論はさておき、世界中でおっぱいの谷間をぷるぷるさせましょうという今回のような試みは、無条件で支持せざるを得ない。
世界的な国際政治・戦略学者が予見する21世紀!