「絶対に売れてはいけないアニメ」とまで呼ばれた『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』をめぐる顛末記

『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト 1【完全生産限定版】 Blu-ray』

 番組改編期にあたる3月末、多くのアニメが最終回を迎えた。そのなかの1本に、1月からテレビ東京系で放映された『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』(*1)という作品がある。

 本作は、テレビ東京とアニプレックスの共同制作による、オリジナルアニメ放送枠「アニメノチカラ」(*2)の第1弾。長い戦争の末、ゆっくりと衰退しつつある未来世界を舞台に、国境沿いの街外れにある”時告げ砦”へ新米兵士としてやってきた少女・空深(そらみ)カナタを主人公として、砦を守る5人の少女たちの物語を描く。

 昨年夏の制作発表以来注目度は高かったものの、人気イラストレーター・岸田メルのキャラクター原案とは大幅にイメージの異なるアニメーション用キャラクターデザインが、『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』などを世に送り出した京都アニメーションが昨春手がけた大ヒットアニメ『けいおん!』のそれに酷似していることなどが放映前から指摘されていた。また放映開始後も、戦争という重い設定とゆったりした日常描写の乖離に戸惑う声が上がるなど、必ずしも評価は良いものばかりではなかった。

 最終的に発生した敵国との軍事衝突がカナタたちの活躍で食い止められ、ひとりの死者も出すことなく終わった22日深夜放映の最終回も、ネットでは「きれいにまとめた」「ハッピーエンドで良かった」と評価する声がある一方「ずっと日常を描きながら何故最後で急に戦争を描いたのか」「誰も死なず、戦争のリアリティがない」などと批判する声も多かった。翌23日夜には、批判意見に対してキャラクターデザイナー・赤井俊文が個人ブログで「人が誰か死なないと感動できないし納得いかないのね。生き残るって感動はないのか」と逆批判を行い(*3)、コメント欄が大荒れする事態となった。

 不穏な状況の中、翌24日にはBD/DVD第1巻(BDは完全生産限定版のみ、DVDは限定版と通常版の2種類)が発売。商品価格比較サイト「価格.com」の提供する秋葉原関連情報サイト「アキバ総研」(*4)は同日、「『ソラノヲト』BD/DVD第1巻発売…! アニメファン/業界の将来を左右する超話題作」(*5)という記事を投稿した。

 同サイトでは、1月8日の記事「大ヒット?ファン反発?の「ソラノヲト」など 2010年冬アニメに対する秋葉原の声」(*6)においてすでに、

【「(原作がない)オリジナル作品なんで、大コケする可能性がある」「やりすぎ、というか” あからさま”すぎるんでアニメファンが反発するかも…」という売れ行きを不安視する声や、「ノイタミナ(※3)に変に対抗せずに普通に出してほしい」「原作ナシで作るならダンスシーンかライブシーンを入れるべき(笑)」といった要望】

 に触れているが、この記事でも

【オマージュやパロディではなく、近年のヒットアニメの設定をあからさまにパクったような作風(※1)が特徴で、内容よりも宣伝やブランディングに力を入れている(※2)ことで良くも悪くも話題になっている】

 と批判的なトーンを隠さず、さらに

【ただし、アニメファン側としては、”絶対に売れてはいけないアニメ”(=もしも業界に” 売れた”と認識されてしまった場合、同様の”オリジナル作品”が世にあふれ出してしまう)という意見が強いと思われる】

 と、本作が客観的にもひどく嫌われているかのような書き方で締めくくっていた。

 このことが、「悪意に満ちている。企業の運営するサイトに載るレベルではない」「主語が大きすぎる。勝手にアニメファンの総意を代弁するな」「筆者が売れてほしくないと思うのならそう書くべき。『アニメファン側』を持ち出して、自分の意見として言わないのがむかつく」などと、ネット上で多くの反発を招いた(*7)(*8)。26日には「ただし~」以下の部分が削除され、「行き過ぎた表現」に対する謝罪・訂正文が掲載されている。

 なお、BD/DVD第1巻の実際の売り上げだが、オリコン発表の4月5日付BD総合チャートによると、発売初週の売り上げは3,057枚で第8位(*9)。DVDは数百枚単位であることが予想されるものの、他の1月新番組を含めて多くのアニメBD/DVDが発売された激戦週において、原作の付かないオリジナル作品としてはなかなかの健闘ぶりだ。スペインへロケハンまで敢行した背景美術がたいへん美麗だったことに加え、作画そのものは終始丁寧で、最終回まで一定以上のクオリティをキープしていたことがBDでの鑑賞欲求につながったものと思われる。

 仮に、主観ではない「アニメファン側」の意見を想定するならば、売り上げデータなどの客観的な数値を見るしかないが、結果を見る限り、このような”オリジナル作品”もやはり望まれていると言えるのではないだろうか。

 敢えて筆者の主観的意見を述べさせていただくならば、リスキーなオリジナル企画がすっかり影を潜め、ある程度の売り上げが見込める原作付きアニメばかりとなった昨今、売れ線の要素を取り入れてでも意欲的なオリジナル作品を世に送り出す「アニメノチカラ」の姿勢は高く評価したいところである。
(文=有村悠)

(参考URL)
*1 ソ・ラ・ノ・ヲ・ト(ソラノヲト)オフィシャルサイト
*2 アニメノチカラ | テレビ東京
*3 紅い日記 えっ・・・
*4 アキバ(秋葉原)の最新情報がわかる!アキバ総研 (秋葉原総合研究所)
*5 アキバ総研-「ソラノヲト」 BD/DVD第1巻発売…! アニメファン/業界の将来を左右する超話題作-[秋葉原総合情報サイト]
*6 アキバ総研-大ヒット?ファン反発?の「ソラノヲト」など 2010年冬アニメに対する秋葉原の声-[秋葉原総合情報サイト]
*7 はてなブックマーク – アキバ総研-大ヒット?ファン反発?の「ソラノヲト」など 2010年冬アニメに対する秋葉原の声-[秋葉原総合情報サイト]
*8 今日もやられやく アキバ総研さんが書いた『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』記事が悪意があるとスレ住人怒り気味
*9 今日もやられやく 04/05付 アニメDVD/BDウィークリー  冬アニメ勢数字キタ━(゚∀゚)━!

 

『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト 1【完全生産限定版】 Blu-ray』

 
それでもカナタはかわいくて


men'sオススメ記事

men's人気記事ランキング

men's特選アーカイブ