昨年11月、大麻と同じ効果があるとされる脱法ドラッグ「ハーブ(※編註1)」を取り締まるため、厚生労働省が改正薬事法を施行した。薬物での逮捕者が急増し、芸能人による薬物事件なども多発している状況を踏まえ、法の抜け道となっていた脱法ドラッグを一掃することが目的だ。改正法では、ハーブに含まれている大麻と同じ作用をもたらすという成分「合成カンナビノイド(※編註2)」が指定薬物に加えられ、製造・輸入・販売などが禁止された。
改正法施行によって、ハーブを扱っていたネットショップのほとんどが閉鎖状態となり、ハーブは市場から消えたかに思えた。ところが、規制の約1ヵ月後には、ハーブを扱っていた大手ショップがリニューアルオープン。そのほかのショップも、後に続くように続々と再オープンし、現在では規制前と変わらない状況となっている。法規制は何の意味もなかったのだろうか?
これは、ハーブを販売している各メーカーが、規制対象となった成分を使わない新商品を開発したためだという。脱法ドラッグの取り締まりは「イタチごっこ」というのが定説だが、今回もそれが現実のものとなったようだ。
「合成カンナビノイドは、海外では以前から規制対象になっていましたから、日本で規制が始まる前から、化学構造式を変えた法に触れない新商品の開発は行われていました。現在、規制対象となったハーブの後継商品が次々と誕生し、世界中の販売ルートにのせられています。大麻経験者が『大麻より良い』と言うほどだった規制前の商品のような優れた作用は今のところ難しいようですが、新商品も決して効き目は悪くありません。人によっては『規制前より効く』と言う商品もありますね」(ハーブ販売業者)
道徳的な問題を別にすれば、規制された成分を使わずにそれほど効果が落ちない製品を作ってしまうメーカーの技術には感心してしまうところだが、法に触れないからといって乱用すれば、思わぬ危険があるという。
「メーカーといっても、決して表には出れないような連中が作っているわけですから、どんな成分が含まれているか、分かったものではありません。販売しているショップ業者ですら、すべては把握してないはずです。それほど強力な成分は含まれていないでしょうから、使用してすぐに倒れたり死亡することはないでしょうが、将来的な健康被害については何の保障もありません」(ドラッグ本ライター)
あくまで使用は自己責任といったところだが、一時のわずかな快楽を得るために、命を懸けてまでやるものではないだろう。だが、ハーブを使用する者は後を絶たず、ネット上にはハーブの情報をまとめたWikiサイトまで存在する。何が彼らをそこまで引きつけるのだろうか。
「ハーブは大麻と同じように、音や光に敏感になる独特の世界が味わえますし、マンチが効いて(味覚が敏感になった状態)何を食べてもおいしくなります。それに何より、身体の感覚が鋭くなって、セックスやオナニーが気持ち良くなるのがタマらないですね。男の場合、覚せい剤やMDMAは勃ちが悪くなるので、バイアグラを併用しないと難しいですが、それはさすがに危険過ぎる。ハーブなら比較的安全に、普段の何倍も気持ちいいセックスやオナニーを楽しめますから、それが病みつきになるんです」(ハーブ経験者)
アメリカの一部の州やヨーロッパなどでは、少量であれば大麻の個人使用が半合法化されているなど、大麻に対する考え方は世界的に変わりつつあるが、ハーブは何が入っているか分からないという意味で、大麻以上に危険な物であるのは間違いない。何年かあとに健康被害が出たとしても、誰かに責任を問うことは、ほぼ不可能といっていいだろう。法律や道徳的な問題以前に、自分の身体を大切に思うならば、手を出すべきものではないといえる。
(文=ローリングクレイドル/Yellow Tear Drops)
※編註1:ハーブ
ハーブ類の乾燥植物に精神作用のある成分を混ぜ込んでおり、大麻と同じようにパイプなどの吸引具を使って使用する。ネットショップでは3g入り1袋3000円程度で「お香」という名目で売られていることが多いが、ほぼ全ての購入者が吸引目的といわれる。「スパイスシリーズ」と呼ばれる商品が世界的にヒットしたが、改正法によって日本では規制対象になった。
※編註2:合成カンナビノイド
大麻の有効成分「THC」を人工的に作りだしたもの。がん治療に伴う吐き気や痛みの緩和、末期エイズ患者の食欲増進、鎮痛剤としての利用など医療目的で開発され、米国では処方も進んでいる。大麻とは化学構造の細部が異なるが、動物実験では大麻とほぼ同様の作用を示しており、THCの3~28倍の強力な効果があるという報告もある。
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